砲の発展
アハトゥンク!
今回の講義は自走砲に関して……に備えてまずは砲そのものの勉強をする。
やぼーる!!
砲は装薬の化学変化による膨張圧を利用して、筒状の砲身で弾丸を加速する兵器だ。
登場後現在に至るまで戦場で使われ続けている。シンプルな構造で遠くを攻撃できる利点を完全に上回る兵器は今だに登場していない。
歩兵が使う銃も同じですね。弾丸を火薬で飛ばす兵器が現代の主役ですね。
もしも歩兵の銃に代わる主力兵器が出たらそれは戦場そのものもが変わる時かもしれない。
だが今回するのは物を撃つ砲の話だ。人を撃つ銃の話は別の機会にしよう。
では大砲の話ですね。やっぱり砲を実際に撃ってみるんですか?
そのあたりは本職の砲兵を呼んであるからそちらから説明してもらおう。
また講師ですか。今度はどんな人でしょう?
はじめまして、砲兵のエルザです。
部下のクレアです。
はじめまして、ザフ子です。
教官、どこで砲兵とわかるんですか?
よく見ろ、襟章と肩章の縁取りが赤だろう。ドイツ国防軍の所属兵科は兵科色で見分けるんだ。
機甲科だとピンク、歩兵だと白、騎兵は黄色、工兵は黒と言った感じになっている。
兵科色で分ける国は多いが、どの兵科がどの色と世界共通の基準があるわけではないので注意しておけ。
詳しい事はまた今度説明しよう。
今回はまずここは実物の砲と触れ合ってもらいます。
特別にPak36を持ってきたので手に触れてみてください。



 
Pakパック
Pakはドイツの対戦車砲の呼び方です。対戦車砲のドイツ語表記、Panzer abwehr kanoneパンツァー・アプヴェァ・カノーネの頭文字を取った呼び方です。 日本語に訳すとしたら36型対戦車砲。
このPak36はラインメタル社製の37mm対戦車砲ですね。会戦当初こそ正解水準でしたが、後にその威力の低さからドアノッカーと呼ばれています。

対戦車砲は正確には歩兵科・装甲猟兵の管轄なんだが、細かい事は気にするな。一番小さいのを選んだらこうなっただけだ。
この砲はpak35/36とも呼ばれるな。これは車両牽引する為に砲を軽合金によって軽量化、ゴムタイヤへの換装を行った結果だ。今回持ってきたのは後期型だ。
??なんだか分かりませんが、ともかく感激です。
既に設営は完了済み。装填させすればいつでも撃てる状況だ。
かっこいいです!!最高です。
…でも椅子が砲の後ろについてないのが玉に傷です。やっぱり撃つ人は真後ろにいないとカッコがつかないですよ。
……どうしたものか…この阿呆を。(チラッ)
(許可する)
(感謝)
……クレア。
なによ?
徹甲弾の装薬を減らして持ってこい。信管も外しておけ。
それと砲尾の保護板外しておいて。
何でそんなこと?
あとウレタン緩衝材。
緩衝材?…まさか!!姉さん……さすがにそれはヤバいんじゃないの?
保護者の許可は取ってある。馬鹿は痛い目を見ないと学ばん。
…ヤボール。どうなっても知らないわよ。
ザフ子候補生。それじゃあ一度撃ってみよう。
ええっ!?いいんですか。
砲を触らせてもらうまで訓練が必要だが、今回は特別だ。私が許可する。
ここで一発撃っていくんだ。
やぼーる!!
……砲弾もってきました。どうなっても知らないわよ姉さん。
御苦労。まずは砲尾に緩衝材を張り付けて。
何をしているんですか?
少し砲を保護してるだけだ。何かあったら困るからな。
ほら、後ろがカッコいいんだろ。そこに屈みなさい。
(やっぱり本気でする気だ)
準備完了。今回はテストだから調節なし。装填!!
装填完了!
よし、ではいくぞ。
やぼーる。
発射!!
ふぁいあ!!
(めきゃ)
あばぁあぁらあぁぁぉあたた!!
あーあ、派手ふっ飛ばされたな。
む、胸がぁっ!!何かが胸に直撃ぃぃ!!く、口から血がぁぁ!!なんじゃこりゃぁぁぁ!?
痛ッ!!あ、熱い!!空薬莢が熱いぃっ!!
…やりすぎたか。
…装薬が少し多かったか。計算ではアレくらいのはずだったんだけど。
まあ、あれだけ元気なら死ぬことはないからいいか。
な、な、な、何が起きたんですか!?
砲は発射時に砲身が後退して衝撃を分散するようにできている。
だから真後ろに立つと体を潰されるんだ。これが実弾だったら死んでいたぞ。分かったか!!
失礼しました。
砲と触れ合う目的は完了。予定通り続きはまたあとで。
貴重なご指導ありがとうございます。
それではザフ子候補生、ここかはら講義だ。砲の発展について簡単に説明していく。
あぅ……。口の中が血の味しかしません。
砲弾が途中で止まってるな。こりゃ後始末が大変だな。
姉さんの独断でやったことなんだから自分で何とかしてよ。
まあそれ以上におもしろい物が見れたからよし。
後片付けくらいいくらでもするぞ。
ところであの緩衝材はどこから持ってきた?
戦車の内張りを引っ剥がしてきた。
うぅ…ザフ子は見世物じゃありません。
……では砲の歴史について簡単に説明しよう。
まず砲の開発に絶対必要なものはなんだと思う?
砲身をつくる技術です。
それも重要だが、それ以前に必要なのが火薬だ。砲弾を加速する為の火薬がないと砲の発想そのものが生まれない。
人類が手にした最初の火薬である黒色火薬を開発したのがだいたい7世紀ごろの話だ。それから数百年はこの黒色火薬が唯一の火薬として活躍していく。
随分と長い間時間使われたんですね。そんなに優秀だったんですか?
性能面では不十分。常に威力の不足に悩まされた。しかしこれしか選択肢がなかったのだ。
火薬の開発には化学の発達が必要不可欠だ。だが科学の礎ともいえる錬金術の発達がそれから数百年後の事だ。
火薬の発達が遅いのも当然だろう。経験則だけでは優秀な火薬など作れない。もちろん爆薬など夢のまた夢だ。
錬金術?等価交換のアレですね。ザフ子は鎧よりも兄の方が好きです。
それにしても火薬と爆薬は違うものなんですか?
爆薬は破壊に適した火薬というのが適切か。法で分類されるので気になるなら自分で調べてみろ。
一口に砲に使われる火薬と言ってもいろいろある。簡単に爆発する(感度の高い)点火薬、爆速が高い砲弾内部の炸薬、ガス発生量が多く砲弾を加速する装薬。
求められる性能がまるで異なる。
砲は化学の集大成なんですね。
黒色火薬は中国で発達したが、それを砲にしたのは欧州だった。
環境に恵まれずアジアほどの発展を遂げらずにいた欧州人たちの技術への情熱は高かったわけだ。
中国製の火薬兵器と言えば元寇の時に使用されたてつはうが有名だろう。これは兵器と言うには苦しい品だな。
そうですね、当時だと歴史的にはアジアが一番豊かだったわけですから。
三国志を見ていると明らかに欧州の戦争とは動員数の桁が違います。それだけ豊かだったんですね。
動員数は国力に左右されるからそれで国力を見るのはそれほど間違いではないな。
初期の大砲は攻城兵器として使用されている。これは何故だかわかるか?
人間に大砲を撃ってひき肉にしても意味がないからです!!
間違ってはいないが別に言い方があるだろう…。
えぇー、別に攻城兵器である大砲を使わなくても人間を殺す事ができたからです。大砲を使って人間を殺す理由がありません。
オーバーキルです。人間殺すには数センチ突くだけで十分!!
では何故現代では大砲が人を殺すのに使われるのか?
大砲が対人殺傷で有効だからです。一発で銃では届かない位置にいる兵隊を大勢殺せます。
砲弾は爆発するから銃よりもずっと攻撃範囲が大きいし、回避が難しいです。
正解だ。初期の大砲は射程も殺傷能力も低かった。
唯一の利点は大質量を飛ばす事が出来たこと。故に大砲は人間よりも丈夫な物、城などを狙う事に使われたのだ。
それともう一つの欠点は、重かった事だ。
でも今の大砲も重いですよ。
だが現在は重い大砲を運ぶ手段が存在する。鉄道、車両、航空機。さらに車両に搭載して自走能力を持った砲も存在する。
しかし当時は人力、あるいは馬しかない。これでは運べる重さには限界があるだろう。
重量制限は性能の制限になってしまう。
でも馬しかない時代でも大砲は使われています。えーっと、たしかナポレオン戦争でも使われています。
うむ、その通りだ。だが当時の冶金技術がそれを許さなかった。いい金属が作れなかったから必然的に単位密度あたりの強度が低くなる。
??
例えば、ファンタジー小説の挿絵などではやたらと分厚い剣が出てくるときがあるだろう。
大剣はロマンです。
大剣じゃなくて分厚い剣だ。あれは金属を加工する技術が未熟な時代の特徴だ。脆い金属しか作れないから、必要な強度を得るために厚みを増やさざる得なくなる。
だから時代が進めば進むほど剣は薄くなっている。それは厚みを減らしても必要な強度を得られる金属を作れるようになったからだ。
つまり、分厚い剣よりも薄い剣の方がいい剣なんですね。
基本はそれで間違いがない。時代が進んでも人間の体力は対して変わっていない。不必要に重い武器を使う必要性は薄い。武器で武器を潰す少年誌のような展開はほとんどありえないからな。
後期タイプ剣なのに分厚さが初期タイプだったりするとかなり気分が沈んでしまうわけだ。少しは調べてから描けといいたくなる。
み、見かけ重視なら問題ないです!!
大砲は大きな圧力がかかるから強度もそれに応じて必要。しかしいい金属がない。 それを補うためには厚みを大きくするしかない。当然その分砲の重量が増してしまう。必要な性能を得るには大変な重量が必要となった。 ただし当時はそれほど問題にはならなかった。大砲が対人兵器として使われなかったから運ぶ必要性が低かった。どうしても必要なら現地で作ればいい。
現地製作!?
そうすれば材料をばらして持ち運べいいだろう。攻城戦は時間がかかるんだ。大砲作る時間くらいはある。 実際そうして作られた大砲は有効な攻城兵器として機能し、兵器としての市民権を得た。
次に構造を見てみよう。初期の大砲は後装式、後ろから弾を装填する方式を取っていた。これはあまりよろしくない。
でも殆ど現代の大砲は後装式です。
とりあえず実際に撃ってみるのが速いだろう。そこに当時の後装式の欠点を再現した大砲を用意した。
ザフ子候補生、撃って実感してみろ。
えぇっ!!ま、また痛い目にあうのは嫌です。
拒否権があるなど勘違いするな。これは命令だ。
や、やぼーる。
安心しろ、少なくとも痛い目にあう事はない。
うぅ…お姉ちゃんはザフ子に嘘をついた事はありません。 怖いですがやってみます。
ではその足のマークの位置に立て、発射はその紐を引けばいい。
当時の大砲は激発式ではないが、これはあくまでも欠点を体験する為の砲だから気にするな。
(私は安全圏まで退避)
ふぁいあ!!
ぬわーーっっ!!
熱ぅっ!!熱いぃ!!熱いぃぃ!!め、メラゾーマァァ!!
とまあこんな感じで砲尾の隙間からガスが漏れて威力が弱まるのが初期の後装式砲の欠点だ。
ちょっと熱い・・めにあったがこれで実感できただろう。
(それにしても、いくらなんでもガス漏れが多すぎだ。後で工作部の連中をシメておかないと)
ど、どうしてザフ子がこんなめに…。
発想は正しくても技術力が伴わなくては意味がない。発想だけ先行するとポルシェ博士やリヒャルト博士のようになってしまうぞ。
当時の工作技術では砲尾を密閉できる栓をつくれなかった。どうしても隙間ができる。そんな状態で砲を撃つと隙間からガスが漏れてエネルギーが無駄になって威力が弱まる。 その後後装式はすたれて前装式、前から弾をいれる大砲に移行していく。
それなら最初から前装式の大砲をつくればよかったのに。
だから技術力がないと作れないといっているだろう!密閉した筒をつくるには栓をする技術が必要。
日本の火縄銃の国産でもここでつまずいて、最終的に製造元から技術支援をうけた歴史がある。
!!
この栓をすると言う事は実は想っている以上に技術力(工作精度)を要求される。 砲を前装式にしてもまだガスを隙間から漏らして威力を弱めている。ザフ子候補生、ガスはどこから漏れていた。
火をつけるところでしょうか?
正解は砲身と砲弾の隙間だ。
砲身と砲弾の隙間ですか?
砲弾は、砲尾と弾頭で密閉された砲身を、ガスの圧力で加速される。この時に砲身と砲弾に隙間があるとガスが漏れてしまうわけだ。 当時の工作精度では完全な砲身と砲弾を作るなど不可能だった。
ザフ子は今だにガンプラを奇麗に組み立てられません。奇麗に物を作るのは大変です。
初期の大砲の特徴は
・冶金工学の限界による砲身の重量化
・工作精度、装薬の問題による低威力・短射程
このような問題を抱えていたわけだ。
これは人類にはまだまだ大砲が速すぎた兵器だったという事ですね。
さらに冶金技術が進んでより丈夫な砲身を作れるようになるにつれて大砲はより有効な兵器になっていく。
特に持ち運びができる範囲まで大砲を軽量化できた点は大きい。
大砲がいつでも使える兵器になったんですね。
30年戦争ではスウェーデンが砲兵隊を編成しておおきな戦果を挙げている。 特に大砲を上手く使って戦争に勝ったのがナポレオン・ボナパルトだ。彼は士官学校の砲兵科を卒業している。
でも席次は低かったです!!
その代り通常よりも短期間で卒業している。飛び級するほど優秀だった。貴様と一緒にするな!!
ナポレオンの大砲の使い方は非常に有効だった。特にその名を挙げる事になるヴァンデミエールの反乱の鎮圧では市街地で散弾を使用して反乱部隊を文字通り反乱部隊をなぎ払った。
大陸軍の編成を見たらわかるが、ナポレオンは大砲を自由に素早く動かす事に力を注いでいた。これも大砲の軽量化に成功した可能になったわけだ。
当時は気球も実用化済み。高い視点から観測する事によって弾着のために必要な観測力も向上していた。
弾はどうだったんですか?
対人ではすでに榴弾(爆発して破片で殺傷する砲弾)があったが、まだ対して有効ではない。炸薬や爆発場所の調節に難があった。 普通の円弾が主力だ。
でも円弾では威力に不満がありますよ。
たしかに円弾では一見弱そうに見える。しかし高速で飛んでくるボーリング玉を想像してみろ。 当時の円弾は着弾後そのまま移動を続けて止まるまで敵をなぎ払い続けた。もちろん当たった兵隊は戦場に出た事を後悔するような目にあっているだろう。
でも兵隊が広域に散開すれば効果が弱まります。多少難があっても榴弾が有効な気がします。
散会戦術が有効になったのはライフル銃が主力になってからだ。このあたりは後日銃の歴史で説明するから気に留めておくだけでいい。
当時の密集隊形に対して円弾は十分有効な弾だった。とはいっても基本的な構造自体は大きく変わっていない。 冶金工学、弾道学、化学などが発達して基本性能はアップしたがそれだけだ。
この時代の大砲の特徴は、戦場で機動力と言える範囲での移動が可能な大砲を実用化できた点に尽きる。
これによって大砲が対人兵器としておおきな位置を占めるようになってきた。
それだけでも大したものだと思いますが?
人類の人殺しへの情熱は満足を覚えさせない。大砲がより進化していく。
ライフル弾道の安定・命中精度の向上
工業力の発展工作精度の向上・後装式の実用化・発射速度の向上
化学の発展砲弾初速の向上・砲弾の殺傷力向上
雷管・薬莢の登場発射速度の向上・安定性の向上・砲弾取扱いの安全性
信管の向上任意の場所での爆発・榴弾の有効性向上
弾道学の発展射撃制度の向上
冶金工学の発展砲の軽量化・大口径化
物理学砲・砲弾・装薬の運動の解析
より効率よく人を殺せるよう砲、砲弾ともに改良が続けられる。
妥協したらその時点で他国に負けてしまいますから当然ですね。
兵器開発は血を吐きながら続けるマラソンですよ。
砲の発展…いや、兵器の発展が飛躍的に早くなったのは19世紀中盤からだ。
まず大きな事は化学の発展。このあたりから砲に適した爆薬が開発されていく。
簡単に列挙してみると以下のようになる。
1845年 ニトロセルロース(綿火薬)
1847年 ニトログリセリン
1863年 TNT
1885年 ピクリン酸合成
1888年 バリスタイト
1889年 コルダイト(無煙火薬)
1898年 RDX
これじゃあ新爆薬のバーゲンセール状態ですよ。 兵器開発はさぞ楽しい事になりそうです。
ではここで火薬の一つの性質を体験してみよう。 まずはこれを見てみろ。
これはガムですか?なんだか食べれそうです。
なんでも口に入れようとするのはやめなさい。(いつもちゃんと食べさせてたはずなのに…)
この粘土状の塊で少し実験してみる。まずはハンマーでたたく。
形が変わりましたね。
火をつけてみると。
じわじわ燃えてます。
お湯をかけてみると。
……溶けちゃいました。
だがこの電気信管を刺してみる。
5秒信管、演習所に投擲。5,4,3,2,1
\\ . -‐- . :: .  -‐- 、 // . ,  / _ ヽ
\\( ⌒  ⌒  ´   ' .. 'ヽ..  /  ´   )
 ;: ( ⌒ )=)´_ ⌒;: ⌒ .. ) ) // ニ==-
(  ( nヽー‐'__;:  _,、__ // `ヽ  
二` - i l  / 。 i /   ゚ ヽ   ; .)  ) .  .─-
 )( ((.ゝ',:  ヽ_ノ  、__ワ ノ  )  二=− )
ξ ⌒, ; (, __,-、_,,、   ̄  )  ) )      )
ゝ//'.. .(> >__,ノ ) )) ) =]3   二=‐-
lー-、. ; ゝ ., :   Lヽ ノ, ; .: ., ) ) ノ  ノ
 ̄, :. ,//. , ;ー─ - - '. , \\\ -'
ば、爆発しました!!
火をつけても何も起きなかったのに!?
汚い花火だ。
今まで貴様がいじっていたのはコンポジションC−4。代表的な可塑性爆薬だ。
見た目はまるっきり粘土。火をつけても叩いても爆発しない。だが信管を使えば起爆する。粘土のように簡単に形を変えられる。実によくできた爆薬だな。
こ、これがダンボールの人が使っていたC−4爆薬ですか?
さて、一方でこの液体を一滴地面に垂らしてみると…
\\ . -‐- . :: .  -‐- 、 // . ,  / _ ヽ
\\( ⌒  ⌒  ´   ' .. 'ヽ..  /  ´   )
 ;: ( ⌒ )=)´_ ⌒;: ⌒ .. ) ) // ニ==-
(  ( nヽー‐'__;:  _,、__ // `ヽ  
二` - i l  / 。 i /   ゚ ヽ   ; .)  ) .  .─-
 )( ((.ゝ',:  ヽ_ノ  、__ワ ノ  )  二=− )
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ヒィッ!!
この程度の事で爆発する爆薬もある。こういった爆発への至りやすさを感度と呼ぶ。
感度が高ければ爆発しやすく、感度が低ければ爆発しにくい。
お腹が痛いので帰っていいですか?
これらの性質をもった爆薬の開発はすなわち、兵器にするのに都合のいい爆薬の開発だ。
必要なところに必要な爆薬を使えば自分たちに都合のいい爆発を起こせる。火器の扱い、威力、信頼性の面で砲は大きく向上した。 この兵器開発に最も貢献したと言えるがアルフレッド・ノーベルだ。
ダイナマイトの開発者ですね。これで安全に爆薬を使えるようになりました。
たしかにダイナマイトはノーベルの発明だ。だが兵器面で最も貢献したのは彼が特許取得した雷管だ!
雷管?
雷管は主力となる装薬や炸薬を起爆させる為の起爆薬を使った管だ。任意の衝撃を与える事によって起爆するのでいままでのように火や火花と言った発火装置が不要になった。 しかも以前よりもはるかに容易に起爆ができて安全。
ノーベルは1864年に雷管の特許をとっている。
どうしてこれまで雷管は登場しなかったんですか?銃砲が登場してから随分と時間が経っています。
雷管に適した火薬がなかったからだ。雷管には感度の高いが必要になるだろう。 雷管の前は1799年に開発された雷酸水銀を起爆薬に用いた雷汞らいこうを使用していたんだが、これは雷管に比べると信頼性に欠けた。
人類の悲願は化学の発達によって達成された。
自分たちに都合いい物を作り出す力ですか…。
逆に装薬は炸薬は感度の低い物を使う。
爆発しやすい雷管を管理する事によって爆発しにくい爆薬を扱う。これが進むことによって信管が生まれる。 信管は任意の時点で炸薬を爆発させ、それ以外の時は爆発しないよう安全装置を組み込んだ装置だ。信管をつけなければ砲弾は爆発しない。
これはどんな時につかうものなんですか?
榴弾を例にしてみよう。榴弾は上空で爆発した方が破片を広域にまき散らす。ここで発射後任意の時間に爆発する信管を組み込んでおけば空中で爆発してくれる。
着弾時に爆発してほしければ着発信管にしておけば着弾時に爆発するだろう。
もし対象が貫通可能な遮蔽物の後ろにいるなら着弾後、対象貫通後に時間差をおいて爆発するように遅延信管を使う。
榴弾が効果的に使えるんですね。
もちろん対戦車砲弾から航空爆弾まで幅広く信管が使われている。信管は爆発物を管理するのに欠かせない機構となったわけだ。
爆発は制御される事で初めて意味がでてくるから当然だろう。
たしかに保存中に爆発されたら笑い話にもなりません。
19世紀は冶金工学も発達した。以前に同人誌で解説したハーヴェイ鋼やクルップ鋼といった特殊鋼が登場し始めたのもこの時期だ。
特殊鋼の採用で戦艦の装甲を半分の厚さにできたんだからその性能は語るまでもない。
あの本にはザフ子は出ていません…。
工作技術も発達し、この頃になると後装式の砲も十分実用可能になっている。
後送式だとどんな利点があるか、答えてみろ。
装填が速くなります。
それ以外にもうひとつ重要な事がある。それはライフル砲の使用に適している点だ。
ライフルは確か、刻んだ溝で弾を安定させる事ですよね。
それで間違いない。それまでの銃は滑腔砲、砲身が滑らかだった。砲弾は丸いから砲身を転がるように進んでいく。 空気抵抗が大きい丸い砲弾が転がるように進んでいくと、空気の壁にぶつかって弾道が不安定になる。どんなふうに飛ぶかわからない、遠く飛ぶほどずれが大きくなるから有効射程が短くなってしまうわけだ。
そこで回転ですね?
砲弾を侵攻面に対して垂直方向に回転させると弾道が安定する。ジャイロ効果という奴だ。
理論自体はかなり昔から完成しており、15世紀にはすでにライフル銃が存在していたらしい。
でも普及が遅いのはどうしてでしょう。どの面を見てもライフルの方が優れていると思います。
ライフル、つまり溝に砲弾を食いこませる事によって回転を得る。この為には当然口径より大きい弾を使用する必要がある。 これを前装式でやろうとするとどうなる?
そ、そんな大きなの入らないっ!!となってしまいますよ!!
初期のライフルは銃で使われていた。ライフルに弾を食いこませる為にどのように弾を装填したか。それは口径より小さな玉の周囲に柔らかいもので覆う事だった。 当時だと皮だな。
なるほど、それだったら無理やり押し込めば装填できますね。
ただし、これは装填に要する時間が大きくなる事を意味する。無理やり押し込むように装填するんだから時間がかかるかわけだ。
当然単位時間当たりの射撃量が少なくなるので軍用では普及しなかった。基本的にライフルは狙撃が要求される猟師の道具だった。
軍用では発射速度が必要?火縄銃でも遅いんですからそれは実用的じゃなさそうです。
余談だが、アメリカの独立戦争ではこのライフルを使っていた。素人の寄せ集めだったアメリカ軍の兵隊に取って、慣れしたんだ猟銃、つまりライフルは都合の良いものだったわけだ。
さて、面倒なライフルも後装式だと問題がない。装填口を大きめにしておけばそれで装填可能になる。
後装式によってライフル砲が実用的になり、飛躍的に射程距離が延びた。有名どころでは幕末に使われたアームストロング砲だろう。
司馬先生の小説で読みました!!凄い大砲です!
まあ活躍がみたいならそれか。司馬…福田先生の小説は誇張や誤解、独自設定が多いから資料とする時は注意するように。
あの人が設定を一つ考えるたびに歴史の誤解が一つ増える…。
な、なにがあったんですか?
………沖田は美形じゃないでしょ。
……創作だったら美形でいいんですよ。
沖田も斉藤も美形なんです。それですべてがうまくいきます。
まあそんな事はどうでもいい。
砲にとって有効な開発が次々となされた。
砲にとって一番大きな発明は駐退復座器である!!これによって大砲は以前とはまったく別の兵器になったと言っていい!!
そ、それはどういったモノなんでしょう?
砲は装薬の圧力で弾を加速する。当然その分だけ砲に反作用が発生する。これが砲を傷めるわけだ。さらに砲が反作用で後方に移動する。
再度砲弾を撃とうと思ったら砲を元の位置に戻しす必要がある。当然発射速度が遅い。
日露戦争あたりで使われた大砲を見てほしい。撃った直後に砲が後ろに下がっているだろう。
これに巻き込まれたら死んでしまいそうです…。
一方で最初の対戦車砲の画像を見てほしい。砲身は下がっても砲は下がっていないだろう。
それは先ほど身をもって経験しました。
この砲身を下げる機構が駐退復座機だ。なぜ砲身を下げると砲が下がらないのか。
それは砲身の後退によって衝撃を全て吸収しているからである。下に簡単な図をに乗せるから見てほしい。 注入された油がピストンで移動して圧力を吸収。圧縮された圧力によってもとの位置に砲身が戻る。砲が動かないから元の位置に戻す手間が減る。
意外にシンプルな構造ですね。
だがそれも確かな工作技術があって初めて可能になるのだ。この機構によって重たい砲がさらに重くなってしまったが、その恩恵は重量増加以上の物があった。
初期ではこの手の方は速射砲と呼ばれていた。これが有る無しの差は黄海海戦の流れを調べてみるといいだろう。
さて、発射速度向上のほかにさらに大きな利点があるのだが、これも実際にやってみた方が速い。
も、もう痛いのも熱いも嫌です!!
今度こそ何もないから黙ってやれ。そこの駐退復座機付きの砲と無しの砲がある。
これで狙った場所に弾を当ててみろ。まずは駐退復座機付きからだ。特別に私が装填手をやってやろう。
あの円の中に弾をあてればいいですね。照準器を信じるならこれくらいですか…。
榴弾装填です!!
装填完了!!
ふぁいあ!!
……外れたな。
こ、このずれ方だと砲を左に修正すれば…。榴弾装填!!
装填完了!!
ふぁいあ!!
…反対側にいきすぎたな。
じゃ、じゃあ今度は中間です!!榴弾装填!!
(最初手前、後奥、最後は中間。砲兵の撃ち方の基本だな)
装填完了!
ふぁいあ!!
ようやく命中。では次は旧式砲だ。
これは駐退復座機がないだけで構造はほとんど同じですね。照準はこんな感じでしょうか。
榴弾装填!!砲が下がっても大丈夫な場所に移動!!
装填完了!!
ふぁいあ!!
また大きずれたな。
な、なら左に修正です。まずは砲を元の位置にもどして……。
前より左に……左に……。
左に?
………砲が動いたせいで前撃った時と照準が変わってます。移動したから前の照準の位置もわかりません。これじゃあ修正できません……。
………もう勘で撃つしかありませんよ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
…15発目にしてようやく命中。
ザフ子は悪くありません…砲がポンコツなんです。
何回やっても何回やっても……。だから次は絶対に当てるために…駐退機だけは。
このように駐退復座機付きの砲は、射撃後照準が動かない利点がある。
発射のデータを流用できるから外した場合はそれを元に修正すればいい。命中したら同じように撃ち続ければ同じ場所に弾が落ちる。
命中速が格段に向上したうえに、命中までの時間短縮、命中の維持ができるようになった。
いままでの大砲のが進化がレベルアップとしたら、これはクラスチェンジと言っていいだろう。
騎士が聖騎士、魔法使いが賢者になるようなものですね。
実に分かりやすいたとえだ。
でもあれだけ大きな衝撃ですよ。あの程度の砲身の動きで吸収できるんですか?
それに古い大砲でも固定すれば後ろに飛びませんよ。
今まで百分の一秒の時間で吸収していた物を十分の一秒で吸収したら、単位時間当たりの衝撃は十分の一になったのと同じになる。
砲身の強度は十分の一でいい。これは大きい。もしこれを固定したら十倍の衝撃がかかる。結果砲身が破裂する。よくても亀裂が入る。兵器としては致命的だ。
あう…。
大砲はこの後第一次世界大戦において進化のピークを迎える。この戦争では性能面のほかに制御面、戦術や観測技術、射撃術の向上が目覚ましい。 近代的な大砲はこの大戦で完成したといってもいいだろう。
あれだけ長期間にわたって殺し合いをしていればそれは進化もしますよ…。
絶対数、射撃密度、射撃術、砲弾の進化、これらの要素により人類は本当の意味での大量殺戮を実現できるようになってしまった。
だが、この時点で実は大砲の性能やソフト以外の問題で人類は大量虐殺が可能になってしまったんだ。それまでは本当の意味で人間は戦争をしていなかったとも言えるだろう。
それは歩兵の小火器の話も関わってくるので後日説明させてもらう。
何だか凄い話になりそうです。
この後も大砲を構成する要素の技術はアップしても基本は変わっていない。
電子化や航空機と言った新技術により戦術・制御ソフト・観測の面では大きく進化したが、大砲自体はあまり変わっていない。
人類のあらゆる技術の発展で砲は進化していったんですね。大砲は正に人類が築いてきた技術の結晶ですね。
もうひとつ重要なのが「発想」だ。
技術は発想を実現する物だという事を忘れてはいけない。
では次回から砲の機構や種類について説明をしていく。
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