戦車砲の撃ち方
アハトゥンク!
今回の講義は戦車砲に関してだ。
結論だけ見たい奴はココから移動しろ。
やぼーる!!
前回同様戦車兵の講師に来てもらっている。
今回は私の本職だな。任せたまえ。
戦車長殿は来ていないのですか?
来てもする事ないからね。ではさっそく戦車砲の撃ち方を教えてやろう。
戦車砲を撃つだけなら簡単だ。砲弾を装填して、撃発レバーを引けばいい。
ただし、当てるとなれば話は別になる。砲は狙って撃たないと絶対に当たらない。照準を合わせるのが非常に難しいのだ。
でもただ相手を中心にとらえればいいだけですよ。
フフ、では実際に狙ってみようか。戦車の方は砲塔に取り付けられている。狙いをつける時はまず砲塔を動かす。
足もとに4区画に区切られたペダルがあるだろ。それが砲塔旋回装置だ。
それぞれ高速右旋回・低速右旋回・高速左旋回・低速左旋回に対応している。
ハンドル操作じゃないんですね。てっきりくるくる手でまわすものと思っていました。
いや、微調整や旋回装置故障時のために砲塔旋回ハンドルがある。足で調節して、手で最終調節をする。
もっとも、あたしのようなベテランはペダル操作だけで確実に照準できるんだけどね。まあ君には無理だろうから素直にハンドルも使いたまえ。
旋回方法の操作端末は戦車によって色々あるから、それは戦車ごとに確認しなさい。最悪の場合、全部手でまわすような戦車もあるぞ。腱鞘炎になりそうだね。
まずは上にあるベンチレーターのスイッチを入れる。
これですね。スイッチオン。
これ、もしも使用しないとどうなるでしょう?
発射ガスが車内に充満して中毒になるだけだよ。冬場に一酸化炭素中毒になるのと同じさ。
照準器を除いてみたまえ。前方に戦車が見えるだろ。
はい、あれはイワンの戦車です!!
今教えたペダルとハンドルを使って狙いをつけてみなさい。
ヤヴォール!!おお、すごい、砲塔が動いてますよ。戦車を中心に…ハンドルも使って…狙いをつけました。
どれどれ、たしかに中心にあるみたいだな。それでは実際に撃ってみるか。
徹甲弾を装填して…閉鎖。よし、撃て!!
ファイア!!!
どうだ、命中したか?
……あれ…かなり手前に着弾しました。
どうしたんだ、砲を撃つなんて簡単だと言っていたじゃないか。
きちんとど真ん中に合わせたはずなんですが。
そりゃ当然だ。砲弾は地球の重力に引かれて下に加速する。まっすぐの状態で撃ったらせいぜい500mしか飛ばないぞ。
分かったら反省して腕立て50回。
ワンモアセッ!ワンモアセッ!
まっすぐ狙っても落ちる。それを克服するには上にも角度をつければいいのだ。
下の図を見たまえ、砲弾が山なりに飛んで命中しただろ。こうなるように砲を調節するのだ。
そ、そんなこと言われてもどうすればいいのですか?
その為に照準器にはメモリが刻んであるんだ。覗いてみると数字が刻んであるだろう。それが照準している距離を示している。
敵との距離と同じメモリに照準器を調節してから狙う。
で、でも相手との距離なんてわかりません。レーザー測距儀でもあるんですか。
あるわけないだろうが。大丈夫、その為に照準器には魔法の記号が書き込んであるのだ。 まずは「戦車 照準器」でググれ

照準器の端にある数字がレンジだ。この数字を目標との距離と同じにする。照準器上の黒い線の部分に数字を持ってくればいい。動画でも実際動かしているのがわかるだろ。
片方の数字が戦車砲、もう片方は主砲同軸機銃のレンジ。
肝心の距離は、照準器の真ん中に三角の印があるだろう。これで相手との距離がわかる。
しるし部分だけ画像にしてみた。
??
この三角はシュトリヒ(ミル)という単位を基準にしている。真ん中は一高さと幅が4シュトリヒの三角。横の線は2シュトリヒ。それぞれの空きは1シュトリヒ。
1シュトルヒは円周を6400等分した角度(約0.05625°)になっている。
な、何か意味のあるなの単位ですか?
シュトリヒの便利なところは1シュトリヒの角度で1000m離れると1mになるのだ!
??
2000mなら2m。4000mなら4m。基準にするにはとてもキリのいい単位だ。
いいか、下の図を見てみろ。これは1000m先の赤い■に照準が合わさっている。■の幅は何シュトリヒある?
三角印の半分ですから…2シュトリヒです。
1シュトリヒは距離1000mだと幅と高さは1mだろ。すると2シュトリヒのこの物体の幅は何mだ?
2メートルです。
では距離が1500mだったら?
1500mだと1シュトリヒは1.5mだから、3mになります。
ほら、シュトリヒを使ってモノの大きさを計算する事ができた。同じ感覚で今度は距離がわからない場合を考えてみよう。
幅2mの物体が距離不明で4シュトリヒある。距離を求めてみたまえ。
4シュトリヒは1000mで4m。それが2mになるんですから…500mです!!
正解!!ほら、これで距離は計算できる。

距離=対象の大きさ÷シュトリヒ×1000

数式を暗記する受験生のように必死で覚えなさい。
はい!!
それじゃあさっき撃ち損ねた戦車に改めて照準を合わせてみたまえ。
戦車の大きさは幅が6mある。これでもう計算できる。
戦車は4シュトリヒの三角の半分+間1シュトリヒ+2シュトリヒの半分で4シュトリヒです。これをさっきの計算式に当てはめると
6÷4×1000=1500
1500mになります!!!
ではレンジを1500に合わせる。
1500…おお、まんなかのシュトリヒが下にさがりました。
下がったらその分だけ砲を上げないといけない。砲の府仰角調節はそこのハンドルを回せばいい。旋回はさきほど合わせたから不要だろ。
ハンドルを回して砲の仰角をとって…完璧です!!
徹甲弾装填。撃て!!
ファイア!!
よくやった、命中!!
あ、当たりましたよ!!
今回は当たったからまあいいが、照準をつける時にはもう一つ計算しなくてはならない事がある。
それは照準器のズレだ。
ズレ?それって初期不良ですか?
違う。歩兵の銃なんかは照準器が銃身上についている。進行方向に関しては弾道と照準が一致している。
だが戦車は照準器が砲身上ではなく砲の横、砲手の位置についている。50cmくらいはずれると思っておけ。
下の図を見てみろ。照準は戦車の中心だが、実際に撃つと砲弾は戦車の隅っこに当たる。機銃だと外れる。ズレは常に計算しておくように
はい!
今回使った照準器は全ての戦車に共通している装備ではない。照準器の形式や表示方法については千差万別。
シュトリヒの記号が異なったり、シュトリヒのない物もある。物によっては照準用に距離の線だけ書いてある、ようはよくある狙撃銃のスコープと同じ奴だ。
シュトリヒがなくて距離がわからないと正確な射撃ができませんが。なにか代替手段があるのですか?
経験で撃つしかない。慣れさえすればある程度距離はわかるし、最悪一発撃ってそこから正確な距離をつかめばいい。
何にしても限界があるから、表記があるに越したことはないね。
レッスン2。射撃する時に狙うべき場所。戦車砲にはそれぞれに貫通能力がある。
これが足りる場所に当たらないと効果がない。前の戦争では戦車の6割が側面を貫通されて撃破されている。
戦車は正面装甲が一番強いから、側面を狙うんでしょうか?
その通りだ。可能なら側面を狙う。とはいってもこれは状況次第なので常に側面が取れるとは限らない。
正面から狙うなら砲塔下部。ここが一番弱い。次は車体。これが無難な撃ち方だ。
問題は…正攻法じゃ絶対に貫通できない戦車と出会ってしまった場合だ。
最強のドイツ戦車でもそんな敵がいるんでしょうか?
T−34もM4も敵じゃないですよ。怖いのはヤーボと数です。
それは戦争後半の話だろ。バルバロッサ当時、あたしは3号戦車に乗っていた。この戦車の主砲はT−34にはまったく通用しなかったのだ。 新型戦車に向かって一発撃っても弾かれて、戦車長の顔は真っ青になったもんだ。あたしも最初は怒ってたけど、数発撃ったところでさすがに青くなったもんだ。
そこで何とか無敵装甲を持ったT−34を潰す方法を見つけないといけなかったわけだな。
ドイツ戦車にそんな時代が…。
そんな時代があったんだよ。何しろ100発以上砲弾を当てても突っ込んでくるんだからどうしようもない。
そんな戦車を潰すには弱点を突くしかない。戦車潰しの極意を教えてやろうじゃないか。
正面装甲を潰す場合は、斜面を利用する。装甲は斜めを向いていると垂直の場合よりも強くなる。そこで戦車が傾斜を移動している時に撃つ。 上手い具合に装甲が垂直になっている時に当てられたら貫通できる。
そ、それはかなり状況が限定されています。
もっともだ。ではそれ以外の方法を紹介してやろう。一番無難なのが砲塔と戦車の継ぎ目。ここは戦車の中でも特に弱い。
ここに当たれば、砲塔がはじけ飛ぶ。それが無理でも砲塔部の部品が内部で四散して乗員を殺傷する。
次の弱点は履帯。履帯に砲弾を当てれば壊れるか切れるかする。機動力さえ奪ってしまえばマトモな乗員なら脱出するだろう。
イワンの場合だと逃亡防止に中からは開けられない戦車もあったらしいが、何にしても動けなくしてしまえばタコ殴りにできる。
キューポラ。これも装甲は薄いので当てれば壊れる。しかもそこに戦車長がいれば敵の戦力は大幅に落ちる。
難易度は高いが、砲身を狙うのも効果が高い。砲を壊す、あるいは歪ませれば戦闘力は皆無だ。じっくりと潰せばいい。 これはイワンも多用した手だな。連中は対戦車ライフルで砲身を狙ってくる事もあるから注意しておけ。
ここからは裏ワザ的な狙い方を少々。T−34の場合ならともかく弾を当てまくるという手がある。上手くいったら自爆してくれる。
それは…恐怖で発狂でもするんですか?
もっと性質が悪いぞ。T−34の砲弾ラックは作りがいい加減でな、弾に外れるんだ。砲弾が落下の衝撃で暴発する事がある。
それに装甲の質が悪いから、衝撃で内側の装甲が剥離して内部の乗員を殺傷する。
まあこれは起きたらラッキー程度に思っておけ。
最後の手段は体当たり。こっちもダメージを受けるが、当たり所によっては効果がある。どうしようもない状況になったらまあやってみたまえ。
一回やってみたが、あれは大変だった。戦車壊れるし、怪我もした。しかも休む暇もなく白兵戦になって泥沼。
思えばヤンチャをしたもんだ…。
あ、あの…回想とかしてくれないんですか?
回想?面倒くさいから却下。まあ簡単に言うと八方ふさがりになった戦車長が体当たりを実行。その後はく兵。
あたしは銃は苦手だから斧でイワンをぶっ叩いてやったぞ。
人間は近接戦闘になると銃よりも鈍器の方を使う傾向にあるんだな。戦車長もマシンガンで敵をぶん殴ってたぞ。
…何のためのCQCなんでしょう。
っていうか、どうして斧なんか持ってるんですか!?
当然だろうが!!戦車兵の…いや、兵士の作業の大半は土木作業だぞ。道が悪ければ整備して、障害物があれば除去。
ロープからスコップ、斧まで土木作業に必要な物は一通り戦車に搭載してあるんだよ。
そ、それで斧ですか?
スコップや斧を振り回すのは兵士のたしなみなのだよ。兵隊がスコップを担いだら用心しなさい。
ではレッスン3だ。今回は戦車が止まっていたから命中した。だが動いていたらどうなっていたか。
距離が縮まる分には問題ない。だが軸がずれる方向に動いているとヤバい。
砲弾は一瞬で命中しました。そんなに深刻な問題とは思えません。
砲弾の初速はパンターの徹甲弾で初速925m/s。距離が1000だと一秒以上かかる。
たったの1秒です。
目標が時速10kmで軸からずれると、一秒で2.77m進む。中心に照準した場合、長さ6mの戦車ならギリギリ外だろうが。
!?
たった時速10kmでこれだ。一秒の誤差は大きい。そのために弾着までの時間、移動距離を計算した偏差射撃をするぞ。
ま、また計算です。
今回の場合だと距離1000mの地点で3mの移動。ではどれだけ照準をずらせばいいか。
1000mですから、1シュトリヒは1m。3シュトリヒ移動方向に向けてずらせば当たります!
正解。では問題。距離1500で時速30kmで走る戦車を狙う。この場合何シュトリヒずらして撃てばいい?
弾着までの時間が約1.5秒。時速30kmで1.5秒に動ける時間は13m。1500mだと1シュトリヒ1.5m。
だいたい8-9シュトリヒ程度ずらして撃つべきです。
よろしい。計算はできるようだから、戦車の速度を体で覚えろ。
そして動いている戦車に正確に照準を合わせられるよう訓練だ。
そうすればザフ子も砲手になれるんでしょうか?
訓練をすればな。訓練では1500mまでなら確実に当てられるようになれ。そうすれば一応合格。
今回は目標が真横を向いていたから簡単に計算できたが、これが斜めを向いていたりすると計算が難しくなるぞ。経験を積んで瞬時に計算できるようにしておけ。
はい!
訓練でどれだけ上手くても、実戦になると命中率が下がる。一番交戦が多い1000mで命中率は8割程度になるだろう。
逼迫した心理状態がどうしても完全な照準を妨げる。それを跳ね除けて確実に当てられるようなったら、貴様は真の砲手になれるのだ。
はい!!
問題は距離が離れた場合だ。距離が離れるほど目標が小さくなる。正確な距離を測るのが困難になる。
0.5シュトリヒか0.4シュトリヒか区別なんてつかん。
照準のズレも距離が離れると増える。それに砲弾も空気抵抗などでまっすぐ飛ばない。
4000mも離れたらあたるのは3発に1発。実戦だと10発に1発程度だ。
いい戦車長と砲手がいるなら、適切な距離で戦える。遠距離の射撃は必要な状況以外はしない。
砲弾の値段は知っているのか、砲弾の補給がいつ来るか分かっているのか?本当に撃つ必要があるのか。それを常に頭に入れておきなさい。
はい!!
あの…ところで、戦車の距離は戦車の大きさがわからないと求められません。じゃあもし新型戦車が現れたらどうするんですか?
勘で撃て。長年砲手をやっていたらだいたいの距離は感覚でつかめる。
一発撃って、それを基準に次で当てろ。
ベテラン以外はどうすれば!?
とりあえず1000mに合わせておけ。これが一番使い勝手がいい。
1000mですか?
砲弾が山なりに飛ぶのは説明しただろ。この山なりの範囲内に目標があれば命中だ。
戦車の中心に照準したとすると、砲弾は以下のように飛ぶ。
こ、これは!?
砲弾の弾道が戦車の高さの範囲内で収まっているだろう。これだと1000m以外の地点だと砲弾が上下にずれる。でもこの上下幅の中に戦車が入っているから弾は当たるんだ。狙った場所にはあたらないが、車体のどこかにはあたる。
どうだ、これなら多少の距離の誤差は問題ないだろ。1000m程度の近距離だと当てやすいのはこれが理由だ。
逆に遠距離だと…。
みたまえ、この場合だと弾道のほとんどが戦車の高さを超えた場所にある。
命中する為には正確に距離を測定しないと難しい。許される誤差はすくない。遠距離の砲撃があたりにくいのはこの弾道の上下幅にあるのだ。
ほ、砲を撃つのはまさに算数…いえ、数学の世界です。感動しました。
それだけだと楽なんだけどね。さっき砲を撃った。まだ砲は殆ど冷えてない。
同じ照準でもう一発、砲塔部分を狙って撃ってみなさい。
ヤボール!!仰角調節………照準よし。ファイア!!
あらら、上すぎるぞ。飛び越えていった。
あ、あれ…。砲塔の真ん中に照準を合わせたんです!
同じ照準でもう一発。ほれ、撃ってみろ。
あれ…今度はあたりました。それもかなり下に。
どうして同じ照準なのに着弾点が大きくずれたのか。今度は理科の授業だ。
熱膨張を知っているか。
物はあたたまると膨らむ現象です。
当然戦車の砲身も熱膨張する。砲身は長い金属の棒を片端だけ支える構造になってる。
長い金属はしなる。これは砲身も一緒。長砲身砲は長さのせいで垂れてしまうんだ。
それが熱膨張すると砲身が膨らんで垂れがなくなり水平になる。砲の角度が変わるから照準もずれる。砲弾は一発目より上に飛ぶ。
一回撃ったら距離1000なら照準を1シュトリヒ下げる。これは基本だぞ。
しょ、照準そのものがかわるんですか?
3発目は逆に垂れが大きくなる。砲弾は大きく下にずれこむ。しかも砲弾のバラけ具合が大きい。
砲によってこのバラけ具合が異なるから、これはもう砲を使いこんで理解するしかない。
じゃ、じゃあ砲が変わったりしたら。
もう一度付き合いなおしだ。戦車兵になるなら戦車は絶対に壊すなよ。
付き合いなれた戦車が一番扱いやすいんだ。
はい!
今までの照準は通常の徹甲弾を使った場合の話だ。榴弾や高速徹甲弾を使った場合はそれに応じた照準が必要になってくる。
高速徹甲弾の場合は初速が速いので距離を少なくする。榴弾も同様だ。
成形炸薬弾は初速が低いので遠めにレンジを合わせろ。照準器は基準にすぎない、常に状況に合わせて使うように。
は、はい!!
それでは次回はさらに砲の続きをやるぞ。。
今回覚えておくこと

 
・砲弾は重力の影響を受けるのでまっすぐ狙いをつけても当たらない。
・照準器の設定項目に距離があるので、これを相手の距離に合わせると正しく狙う事ができる。
・目標までの距離は、目標のサイズと照準器の記号(シュトリヒ)をつかって掛け算で求められる。
・照準器は砲から離れた場所にあるので、この距離分だけずれば場所に着弾する。
・動いている相手には速度を計算して未来位置を予想して照準をつける。
・弾道が相手の高さ内で納まっている目標には遊びができて当てやすい。
・長砲身は自重で垂れている。発砲の熱で膨張すると足れ具合が変わる。その分だけ照準がずれる。
戻る