疑心暗鬼
「…なんだんだよ…あいつ?」
漫画に出てくる化け物じゃあるまいし。どう見ても弾丸は内部に入っていた。
死ぬはずだ。
何で俺たちがあんなのを相手にする羽目に。
英国王立国教騎士団やバチカン特務局13課、アーカムの特殊部隊、帝都の探偵、新宿の煎餅屋。
そんなのが相手にするのが筋ってもんだろうに…。
俺たちみたいに平凡な学生には荷が重過ぎる。
「…そんなことよりも!」
栞が怒ったように叫ぶ。
「どうした?」
左腕を捕まれる。裂けた服を捲りあげられる。血が滴っている。
「痛いぞ…」
浅いが広い傷。
けろぴーを撃った時の角度が悪かったか…。はさみが横になぎ払われて腕に広い傷をつけられたようだ。
とりあえず出血はそれほど多くはない。すぐにどうこうはなさそうだ。
栞がハンカチを巻きつけてくれる。服を元に戻す。
「今は自分の心配をしてください!お腹を刺されたんですよ」
次は腹の方に手をかける。
「だからたいした事ないって」
「しかも私を庇って腕まで」
「フッ…あれくらいの事で…」
俺はこれ以上いじられては堪らないので自分で服を捲り上げて傷を見せる。
「よく見ろ。少し切れただけだ」
腹には小さな傷があるだけだ。大きな傷がでて内臓が飛び出したりはしていない。
多少血がでているが放っておいてもたいした事はないだろう。
「そんな…どうして」
「これのおかげで助かった」
上着のポケットに手をやる。そしてポケットの中を栞に見せた。。
「これは…」
ポケットの内部はどろっとした液体とガラスが充満している。秋子さんのジャムだ。
ポケットの中に入れておいたのがはさみによってビンを割られてポケットに広がったのだ。
「けろぴーのはさみがコレに当たったんだ」
「?」
「逃げるときにはさみが見えたんだが…その先が煙あげて腐食していた。多分これに触れたからだと思う」
「それじゃあ」
「ああ。そのおかげで腹には刺さらなかったし腕もたいしたことないわけだ。運がよかった」
もしもコレが無かったらと思うと…。
「よ…」
「しかしこの上着はもうダメだな。結構な値段だったんだけどな」
さすがにあのジャムまみれになった服は着る気が起こらん。さよなら…俺の3万円…。
「よ…」
栞の顔に目を向ける。その目は潤んでいる。
「よかった」
安心したのか栞が俺に抱きつく。
「お、おい」
顔を胸に埋める。そこが湿ってくるのがわかる。
「大丈夫だよ。俺は死なないよ。まだやることがある。それまでは死なないと決めたから…」
栞は話を聞いていないようだ…。
「あー、そのだな。俺もこういうのは嫌いじゃないが…いや普段なら大歓迎だが」
な、何を言ってるんだ。俺は。
全国の年下好きのお兄さん達(好きなゲームはシ○タープ○ン○ス)が見たら殺されかねないこの状況。
「なにぶん今は非常事態だ。このぐらいにしておこうじゃないか」
栞を胸から剥がす。
栞の瞳が俺に向けられる。
涙に濡れた顔。
か、かわいい!!
抱きしめたい!
萌え!!
って!またもや何を考えている俺!
なんだよ萌え!って?
「と、とにかくここに居続けるのは危ない。行こう」
栞の手を引いてけろぴーの行ったのとは逆方向。西館の扉を開いた。
萌え!!
ええい!しつこいぞ俺!!
「あの…」
「どうした?」
後ろを振り向くといきなり両頬を捕まれる。この体勢は…。
「祐一さん…」
「栞…」
ムギュ!
「痛ひぞしほりー」
いきなり頬を抓られた上にさらに思いっきり引っ張られた。
「ひゃめてくれ。はひょが歪む(やめてくれ。顔が歪む)」
「もとからじゃないですか」
「ひょ、ひょんな(そ、そんな)」
「落ち着いたら腹が立ってきました。人が蒼白になって心配しているのに何が…フッ…ですか!?」
フッ…と言いながら栞が髪をかきあげる。別に俺はそこまではしなかったが。
「いひゃ…やっはりああいふみせはひゃひゃっほうつへないほ(いや…やっぱりああいう見せ場じゃ格好つけないと)」
「はっきり言って全然格好よくありませんでした」
…そんな後無体な。っていうかよく聞き取れたな。
「だいたい フッ っていうのは相当に超絶美形、もしくは相当の知略の持ち主、策略家でないと似合わないものです!」
「ひょ…ひょんな…だーふ・ひゅないだーじゃありゅまひし(そ…そんな…D・Sじゃあるいし)」
「超絶美形、もしくは知識系意外が フッ を使うのは、戦争物で
この戦争が終わったら結婚するんだ
90式はブリキ缶だぜ
新型?どうせたいした事ないだろ
と言うのと同じです」
死ぬってことね。しかし最後のはどうかと…。
「いいですか。フッ…を使っても問題がないキャラクター…例えば
キース・エヴァンス リチャード・ウォン
シャア・アズナブル アナベル・ガトー
タイガージョー 烏丸羅喉
シュバルツ・ブリューダー 東方不敗 ドモン・カッシュ
フェニックス一輝 キグナス氷河
ベナレス 鬼眼王
ラオウ トキ
セフィロス ヴィンセント
ラインハルト・フォン・ローエングラム オスカー・フォン・ロイエンタール
ディオ・ブランド―
等があげられます…他にも」
さすが元引きこもり…じゃなかった暇人。相当に色々なキャラを把握してる。
「わかった!わかった!俺が悪かった。二度と フッ は使わない」
「わかってくれればいいんです」
西館に入った俺たちはとりあえずすぐそばの部屋に入った。
とりあえずしなければならないことがあった。。
入った部屋は居間だったで好都合だ。
栞には外で見張りをしてもらう。
左腕の服をめくる。真っ赤に染まったハンカチ。
ハンカチをほどく。縦に10cmほど広がる赤い溝。
そこから血が滴り床に赤い円を描く。
出血が止まらない。服の内側も赤く染まっている。
それほど鋭くない刃で切られたのがまずかったな。
やれやれ…これを栞に見られたらうるさい事になっていたな。
家捜し。血止めに使えそうな綺麗な布を集める。
布をあてるしっかりと止血する。とりあえずは大丈夫そうだが、無理をすればまた血を吹くな。
「………」
落ち着いたら後、無言で考える。
確かに秋子さんは拘束しておいた。
それなのにけろぴーは現れた。
秋子さんが拘束をといて先回りしたか?
無理だな。地理的に先回りは不可能だし、時間的にも無理だ。
では何故アレが俺たちを襲った?
…………かえるは二匹いた。
そう考えるのが自然だ。
しかしそれは不快な結論。
人の住んでいた様子のない家
孤立した土地
俺たち意外は誰も乗っていないことを確認した車
一つしかない車の進入した後
これらのフラグメントから導かれる結論。
共犯は俺たちの中の誰かだ。
だとしたら裏切り者…いや別に裏切り者ではないな。
共犯は誰だろう?
現在生存の可能性があるのは
香里
舞
佐祐理さん
天野
この4人だ。
天野は違うだろう。
真琴の話だと天野はケロピーに斬りつけられている。
真琴がウソをつく理由はないし、現場に血痕もあった。
香里はどうだろう?
何か変なところがあれば栞が気が付かないはずがない。
舞、佐祐理さん。
この二人にしても同様だ。
………わからない。
そもそも誰もが人殺しをできるような人ではない。
何にしろやることは変わらないな。
索敵逃走。それだけだ。
寝首をかかれないように気をつけないといけなくなったが。
俺は懐の拳銃を取り出す。
手にコルトの重み。
昔から銃を撃ってみたいとは思っていたがこんな形で手にすることになるとは。
…どうせなら今日の面子でハワイにでも行って、そこで思う存分射撃をする…とかだったら良かったのに。
それもこんなコルトではなくマテバを…。
マガジンを抜き出し残弾を確認。
2発減っているのを見て、秋子さんから奪った予備マガジンを代わりに装填する。
これで合計9発の弾丸を撃てる。
手元に残った6発入りのマガジン。
これが唯一、そしてそれほど頼りにならない命綱だ。
マガジンの頂上に見える赤銅色の弾頭。
人間相手ならこれ一つで何も恐れるものがない。
だが今コレはくだものナイフを持っている程度の安心感しか俺に与えてはくれない。
もしこの手の中にあるのがIMIの大型自動拳銃でも、Nフレームだろうがそれは同じだろう。
……オーバーロードの銀の弾丸が欲しい気分だ。
安全装置をしてベルトに差し込む。
そしてこみ上げてくる不快感。
最悪の場合友人を撃たないといけない。
俺に撃てるか?
さっきは撃てた。殺されかかったから。素顔を隠すぬいぐるみ。腹に突き刺さった刃。向けられる明確な殺意。
それらがあったからトリガーを引けた。殺そうとすることができた。
だが素顔をさらした友人を撃てるか?
ぬいぐるみなら撃てる。アレは化け物だからだ。
だが人間は…。
次に刃を突き立てられたら死ぬだろう。
その前に撃てるか?
撃てるか?
殺意を向けられるか?
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
撃たないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺意を込めないといけない。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
殺らなきゃ殺られる。
コールタールの海を泳ぐような思考のうず。
自分の頭に殺意を植え込む。
………………………落ち着け。
こればかりは考えても仕方ない。
これ以上考えても袋小路に陥るだけだ。
とりあえず撃つだけの覚悟はできた。
殺人狂にくれてやるほど俺たちの命は安くはない。
安くはない。
「行こうか栞」
入り口で見張りをしている栞を促す。
「これからどうするんですか?」
「やることは変わらない。生き残りを見つけて逃げる。それだけだ」
「残りは4人ですね」
「ああ…。ただ…」
俺は誰かが共犯である可能性を話した。
最初は信じられないような顔をしていたが、やはり出るはずのないけろぴーが現れたのを目撃したのだ。
納得してくれた。
「とりあえず片っ端から部屋を探そう」
「はい」
扉を出る俺。
そしてそれに栞がついて来るのだが…足元がふらついている。
顔色も良くない。
「出発は延期だ。お前も少し休め」
「大丈夫ですよ」
「いいから少し休んでろ。途中で倒れられても困る」
「でも」
栞は苦しいことを表に出さない性格だ。
黙っていたら倒れるまで歩きつづけるだろう。
「はいはい幸いソファーがある。寝てろ」
「…………」
嫌がる栞を無理やりソファーに寝かす。
「きゃっ」
……この表現だと俺が強姦魔のようではないか。
「祐一さん!」
「はい!黙って寝る!」
うん。これだと表現的に問題なし。
とにかく栞をソファーに寝かせて見張りにつく。
「…………z………z……」
栞も疲れていたのだろう。
すぐに寝息が聞こえてきた。
「ゆっくり休めよ」
とは言ったもののあまり時間をかけるわけにもいかない。
…30分。
それぐらいだな。
休息を取らないよりはずっといいはずだ。
扉の外をうかがう。
辺りは静寂が支配している。
………………。
異常なし。
「ゆう…いち…さん」
背後から栞の声。
「どうした?」
何があったのか振り向いてみると…栞が寝ていた。
寝言か。
いったいどんな夢を見ているんだか?
せめて夢の中でくらい平穏でいて欲しい。
「…こんな所でロープなんて」
ゴンッ!
「目がー目がぁー目がぁ!!」
(某宮崎アニメ風)
いきなり何を!?
上を向けていた銃口に眼を突っ込んでしまったわ!
………………どんな夢?
というか俺にはそんな趣味はないぞ!
無いぞ!
だから無いんだってば!!
…………………。
きっとロッククライミングでロープが必要なのだろう。
そうなんだよ!!
「そんな鞭なんて!!」
…………。
……………。
………………。
…………………。
……………………。
ジョー○ズ博士!
ラン・ディ・ロ○ズ・シュ○イン・ノイ○ウテン!
妖狐○馬!ローズ・ウィップ!
怪傑ズ○ット!飛鳥五郎を殺したのは貴様だな!
ウイ○ル獄長!泰山流千条鞭!!
俺の頭の中で鞭を使う著名人がリストアップされた。
「アイスをそんな事に使うなんて!」
そんなことってどんなことよ!?
…本当に寝ているんだろうな?
実は起きていて俺をからかっているだけなんじゃ…。
むしろその方がホッとするんだが…。
試してみよう。
「…貧乳」
「…………」
反応なし。
まだ振りかも。
「扁平胸!へっぽこ画家!チビ!」
「……………」
反応なし。寝てるな。ついでだから最後にもう一言。
「あれは一月ほど前の金曜日のことだった…。
学校の帰りに俺は北川に声をかけられた。
なんでもナンパにいくから付き合えとのことだ。
……恋人や妻がいるからこそできる大人の遊び…
それは貴婦人との火遊び…。
俺はその場で了承し町へでた。
日ごろ甘いものを食べていると、たまには辛いものを食べたくなるものだ。
俺たちが最初にターゲットにしたのは某学校の生徒…制服からして年上の女性だった。
その女性は流れるように長く美しい髪と端正な容姿、そして年配者の余裕をもったオーラを纏っていた。
最初に北川が声をかけるがあえなく玉砕
涙を流す北川を横目に今度は俺が声をかける。
これでも美少女ゲームの主人公。
りゅうのすけほどではないが巧みな話術で彼女の心を掴み取る。
北川の呪詛を背中に浴びながらその後何日かの付き合いをする俺たち。
そして夜も共にすごすことも。
さて、火をつけたら燃え広がる前に消火が必要だ…。
火遊びの達人とは、消火の達人でもある。
もともとお互いが合意の上での遊びだったので消火は楽だった。
そして今でも彼女とはよき友人としての付き合いをしているよ。
以前には消火に随分と手間取った事も会ったが、それでも失敗したことは無い。
胸を張って町を歩ける。
余談だが北川は俺が去ってからも女性に声をかけつづけ6人目にしてようやく成功。
ただしその相手は…俺の感覚からしたら勘弁して欲しいような女性だった。
俺は遊びは相手を選べと注意はしてはみたが…。
しかも消火に失敗。
今でも話がこじれており、背中に注意をしながら歩く生活が続いているそうだ。
あいつは所詮三流どまりの男という事かな」
「………………」
どうやら本当に寝ているようだ。
そんなこんなで30分。
「起きろ栞!」
「……………うーん」
「起きたか?」
「おはようございます」
「起きたな。じゃあ行くぞ」
「どうしたんですか祐一さん?顔が赤いですよ」
「…………………」
「あ。私の寝顔を見たんでてれてるんですね」
「…………………」
「そんな照れる必要ないですよ」
「…………………」
「他の人ならお金を取ったところですけど祐一さんなら問題ナシです」
「…………………」
「さ、行きましょう」
栞の笑顔が……怖い。