一章 夜の校舎の剣士
夜の学校は昼のそれとは別物である。それも人の存在を否定するような場所。夜の世界の住人のみが歓迎される場所。ここにいるとそんなことが頭に浮かんでくる。何だか毒電波なんかが氾濫してそうだ。
夜の校舎に名雪のノートを取りに来た俺はそんなことを考えていた。そして目的を済まして帰ろうとしたところで俺は自分の考えを証明するものに出会った。
「よう、こんなところでなにしてるんだ」
俺の声をかけた先にはこの学校の制服を着た一人の少女が立っていた。それだけなら普通のことだがその少女はそれで終わらない特徴を持っていた。それは閉じたままの右目と肘の先からない左腕。そして背中に背負った剣であった。
その剣はまるでガッツがグリフィス救出時に使っていたような物だった。
だがしかしその構え方はまるでスタンド「アヌビス神」を構えているみたいで何だか笑えてくる物があるのが残念だ、今にもゴゴゴゴゴと音が聞こえてきそうだ。
「演劇の練習でもしてるのか?」
自然とそんな質問が口にでた。
「………」
少女はなにも答えない。
「いや、別に怪しいものじゃ…」
そう言った直後に、
「ニエ」
と後ろから聞こえた。そしてその直後得体の知れない何かが俺の体にまとわりついてきた。
「……っ」
悲鳴をあげそうになったその刹那、少女が剣を振り上げた。そしてそれが空を切って俺にまとわりつく何かを切り裂き床を砕いた。
しかしその衝撃で俺は大きく宙に舞い上がりそのまま床に激突した。
「くそっ、ダニー、グレック生きてるか?」
思わずそう叫んでしまう。しかし、ああ、なんとかな。などと返事は返ってこない。当然の事だが。
「……」
こんな状況でも目の前の少女は何も無かったかのように沈黙している。
「あんた何もんだ?」
「……私は魔物を狩るものだから」
それ以上聞くこともできず俺は逃げるようにその場を離れた。家への帰り道でひどく興奮しているのに気付いた。恐怖が薄らいで日常にはあり得ないことに自分が遭遇したのに気づいたからだろう。
魔物、剣を持った少女…すべてが興味を引くのに十分だった。
次の日学校で俺は、昨日の出来事が幻ではなかったことを改めて認識した。
「よう、またあったな」
昼食の調達(パン)の帰りに昨日の少女がすぐそこを歩いているのを見つけたからだ。
「昨日わからなかったけど3年だったんだ。1つ先輩だな」
「……………」
しかし、昨日と同じで少女は、なにも答えてはくれない。
「ええーと、俺は相沢って言うんだ。よろしく」
警戒されているのかもしれない。そう思った俺は少しでも場を和ませようとした。
「……………」
しかし相変わらず少女は俺を警戒しているような雰囲気を放っている。
「昨日ここで会ったよな?」
俺は改めて聞いてみることにしてみた。
「私に構わないで」
そう言われて、場がさらに気まずくなった時だった。『ぐぅー』と音が鳴った。その瞬間から場の空気が緩くなった。なんだか今までの間の悪さが嘘みたいだ。今の音がの氷に包まれたような場を溶かしてくれたようだ。
「昼飯食べてないのか?」
俺は半分笑いたいのを我慢して、当然の質問をしてみる。
「……食べてない」
「じゃあ昨日の礼もあるし、俺におごらせてくれなかな」
なんだかうれしくなってきた俺はそんなことまで口にした。
「食べる」
どうも空腹には勝てないらしい。そうして俺達は食堂に行くことになった。
「改めて聞くけど、昨日会ったよな?」
ある程度食べた時点で質問を再開してみることにした。
「……会った」
どうも腹がふくれると温和になるらしい。これだけのことを聞くのにずいぶん苦労したもんだ。
「さっきも言ったけど俺は相沢祐一って言うんだ。先輩は?」
「……舞、……川澄舞」
意外に(?)普通の名前だった
「川澄舞先輩ね。じゃあコンバット川澄ってよんでいい?」
「相当良くない」
「ちっ」
「…」
「昨日言ってたけど、魔物って何?昨日俺が見たやつ?」
調子に乗って質問を繰り返す。
「…………」
舞は答えてくれない。そうしてるうちにチャイムが昼食の終わりを告げた。それは同時に舞といる時間の終わりだった.
「また会おうな。先輩」
そう言って俺は教室に戻った。走って戻ったのは少し興奮していたせいかもしれない。俺の前で、日常では有り得ないことが起こっているの改めて自覚したせいだろう。
そう、俺の前に何か普通では有り得ない何かが現れたのだ。
その夜、俺はまた昨日と同じ場所に行ってみた。すると昨日と同じように一人の少女が立っていた。違うところは散乱するガラスと傷を負った体だった。昨日と同じ奴とやり合ったのかもしれない
「おい、大丈夫かよ?見せてみろ」
「……さわらないで」
傷を負っていてもいつもどおりの愛想がない。
「そう言うなって先輩、ほら今手当てするからさ」
手当てし始めると静かになった。薬が効いているらしい。
「よく効くだろ先輩。秋子さんからもらった特別なやつ(ぢゃむ?)だからな」
「……舞でいい」
少し舞の雰囲気が柔らかくなった気がしたので俺はまたあの質問をしてみることにしてみた。
「なあ舞、魔物って何」
「……………」
相変わらずこれには答えてくれないようだ。そのとき俺は舞の首に何かが刻まれているのにきづいた。
「なあ舞、それなんだ?首んところにある紋章みたいなの」
そう聞いた直後、舞の顔つきが変わった。
「…烙印…烙印だ」
「烙印?烙印って何だ?誰にやられたんだ?」
「そのうち…わかる」
その時の舞の顔を見ると、俺は何かそれ以上聞いてはいけないような気がして質問を変えた。
「しかし見事にガラスが割れてるな。どうするんだ、これ?」
「私は魔物を狩るものだから」
「それがどうしたんだ」
「それ以外のことは知らない」
その言葉に何か暗く重い感情を感じた俺は、この場に居づらくなってきた。俺はそのまま今日のところは帰ることにした。
それから何日か俺は、舞のところに通い、そしてそのたびにあの得体の知れないものに遭遇した。そんなある日のこと、いつものように俺は舞のところにいた。
「なあ舞、片腕だと不便じゃないか?」
「便利じゃない」
「じゃあ、ちょっと左手を出してくれ」
そう言って俺は舞の左手をとった。
「これは?」
「すごいだろ、秋子さんに頼んで用意してもらったんだ。磁石入りだから剣も振るうこともできるぞ」
そう、俺は秋子さんに舞のための義手を頼んでいたのだ。しかしなんでもできるな、あの人は。そう思いながら舞の方を見ると、何かが気になっているようだ。視線をたどると、俺の背中の荷物が気になるらしい。
「ああ、 これか?それといっしょに秋子さんがくれたんだけど…」
そう言ってる途中で誰か男がこっちに向かって歩いてくるのに気づいた。
警備員だろうか?まずいな。
「あの、俺達怪しいものじゃ」
我ながらなんて説得力に欠けるのだろう。こんな夜中に学校に忍び込んで、その上一人は剣持ちときたもんだ。今にも、何だテメェは。いい度胸してんじゃねーか などと言われそうだ。その時は 汚い手で触るな とでも言うか。そんな事を考えていると舞が前にでた。
剣を構えて。
「私の客だ」
そう言った瞬間、舞は男に向かって斬りかかった。剣が男に振り降ろされ身体を吹き飛ばした。
「舞!なんてことするんだ!」
今なら少女Aで済むんだろうが、マスコミの前で証言するなんてヤダぞ。
その直後俺は自分の目を疑った。吹き飛ばされた男の体が変形して蛇のような化け物になったからだ。俺は恐怖で体が動かなかった。今更ながら自分が普通には居ていけないところにいるのがわかった。化け物が鋭い爪を振りかざして襲いかかってきた。
その瞬間、舞が動いた。剣をもって化け物に斬りかかり、それが化け物の腕をおとす。返り血をあびながらさらに斬撃を繰り出す。その姿に俺は何か恐ろしいものを感じた。そして剣が当たった瞬間、剣が高い音を立てて折れた。化けものが腕を振りかざし、舞を吹き飛ばした。
「舞!どわっ」
吹き飛んだ舞が俺に向かって飛んできて、直撃した。ぶつかった舞はそのまま遥か後ろの壁に激突した。何とか起きあがった俺を化け物がこちらを見ている。
逃げようとしたが足が動かない。助けを求めるように舞の方を見るとすでに
姿がなかった。逃げたのか?
そして化け物が俺の目の前まで近づいてきた。
もう死ぬな、そう思った瞬間、俺の後ろから何かが飛んできて化け物に当たった。そして白い煙を上げた。それは消火器だった。
「伏せろ、祐一」
煙で何も見えない中で声がした。慌てて言われた通りにした瞬間、頭の上を何かが通り抜けすごい音がした。
煙が晴れたそこには、大剣を構えた舞と下半身だけになった化け物が立っていた。
それは 剣と言うにはあまりにも大きすぎた
大きく 分厚く 重く そして大雑把すぎた
それは 正に鉄塊だった
「祐一、……私向けのが有るじゃないか」
「何でそれを振り回せるんだよ、おまえ?」
あれだけのことをしながら、全く平然としている舞に少し呆れた。そして舞は化け物の頭がある方に向かっていった。俺もついていく…と、そこには陸に打ち上げられた魚のようにもがく化け物がいた。
「まだ生きてる、気持悪いな。舞、これが魔物なのか?」
しかし、何も答えず舞は化け物に話しかけた。
「まだ…死ぬな。ゴッド・ハンド…5人のゴッド・ハンドはどこにいる?」
「お……おまえいったい…? そ…それは生贄の烙印!貴様は…!!」
そう言った直後に、無言で舞が剣で化け物を切る。
「質問しているのは…私」
「知らん!!あの方達のことは我々の思い及ぶところではない」
「じゃあ……死んで」
「助けて!」
「断る!」
何でドモン風の言い方してんだよ?
「待って!死ぬのはいやだ待って!助けて!」
「当たり前、だから殺す」
化け物は恐怖に支配されているのがわかる。
「殺さないで、私を殺しても何にもならない」
「同じ事を言った人間に、貴方は何をした?」
「ヒッ」
「豚の様な悲鳴をあげろ」
それはキャラが違うぞ。いつから某国機関のゴミ処理係になったんだ、まあどっちも似たようなもんだが。ガッツやれよガッツ。
舞は無言で剣を振り下ろす。そのときの顔は喜びに満ちているようだった。俺は、それを見ていて体が震えていた。舞が非常に恐ろしい存在に思えてきた。とどめを刺すと舞は振り向きもせずにその場を去っていった。
「…狂戦士…」
そんな言葉が不意に口をでた。