四章 欲望の守護天使(2)
俺と栞は放課後の学校の中庭にきていた。栞がここで俺と話したいことがあるからといってここにきたからだ。
「体調のほうはいいのか、栞?」
とりあえず、いきなり本題に入らずに軽く話をするところから始めることに俺はした。栞の表情を見ていれば、これからその口から話される事が栞にとって何か深刻なことだということが容易に想像がついたからだ。
「あ、はい。おかげさまですっかりよくなりました。今なら裏の格闘技会でも戦えそうです」
「東京ドームの地下でか?」
「はい」
危ないから止めとけ。それに際限なく強くなりそうだ
「…それはよかった。それで香里とはうまくいってる?」
「あの…実は祐一さんに話があるというのはお姉ちゃんのことなんです」
ミスった、いきなり核心に入ること聞いちまった。しかし香里がいったいどうしたというんだろうか?
「香里がどうかしたのか?もしかして、またうまくいってないのか?」
この物語のなかでは栞は病気が治って姉妹の仲もうまくいっていることになっているからだ。ってだれに説明してるんだ俺は?
「そんなことはないです、お姉ちゃんは私にやさしいです…でも」
「でも?」
「何をどういえばいいのかわからないんですが、なんか最近のお姉ちゃん変なんです」
「変?」
普段なら何いってるんだかと聞き流してしまうような相談だが、栞の表情を見ていればその深刻さの度合いがわかるので真剣に話を聞く。
「なんと言えばいいか…最近、急にそうなったんですがとにかく感じがいつもと違うんです。そう何だかお姉ちゃんがいるとバックでゴゴゴゴゴと効果音がしている、そんな感じなんです」
「違うって俺が会ってた時はそうは思わなかったけど」
俺にわからなかったってことは長い付き合いの人間にしかわからないようなことなんだろう。だったら名雪のやつもわかってもいいはずなんだが。
「まず人を見る目つきが違うんです。なんと言えばいいのかわからないんですけどあえて言うならアミバがケンシロウを見るような、とにかく怖い感じなんです。あと真夜中に急に家からいなくなったりして挙動不審なんです」
確かにそれは相当怖いだろうな。
「ところでいつぐらいからそうなったんだ?」
「えーっと、たしか1週間ぐらいからだったと思います」
「1週間ね。ホントつい最近からだな」
1週間前か、何か頭に引っかかることがあるがどうもうまく形にならない。多分どうでもいいからと聞き流したような事だからだろう。
「はい」
「何かそうなるような心当たりはないのか?」
当然の質問をしてみる。
「ないんです。それで私、昨日心配してお姉ちゃんの部屋に話をしにいったんです。そうしたらお姉ちゃん、部屋にいなくて部屋の中でこんな物見つけたんです」
俺は今日も夜の校舎に来ていた。そして舞に今日、栞から相談を受けたことを話していた。
「で、舞。そのとき栞が見せてもらったものが、これだ」
俺は栞から借りた『あるもの』を舞に見せた。するとその瞬間舞の表情が険しくなった。
「ベヘリット……!」
そう言うと舞は俺に掴みかかってきた。
「祐一この件についてのこと、知っていることは全て話せ」
「し、知ってることは全部話した、苦しい離してくれ」
そう言うと舞は手を離した。舞はこれについて何か知っているらしい。しかもこの剣幕からして魔物絡みのことを。
「死ぬかと思った」
「…………」
舞は黙って俺のほうを見ている。
「いったいこれは何なんだよ?」
落ち着いた俺は、騒ぎの元を見て聞いてみた。
「……鍵。この世界と重なるもう一つの世界との扉を開く鍵……太古から人間の闇の歴史を支配してきた異次元世界の化物ども…………五人の”ゴッド・ハンド”を呼び出す鍵だ」
「ゴッド・ハンド…あの変わり種ガンダムの必殺技の1つ、爆熱…」
「…それはゴッド・フィンガー…」
「ヒート・エンド!」
「…しつこい」
「そうだなこのネタは巻末にやろう。それに鍵……つまりkeyがこの業界を支配しているということか」
「祐一の言っていること、よくわからない」
太古から支配ね、…ムー大陸を滅ぼしたザグナス=グドみたいな奴の事かね。もしくは第2部の究極生物みたいな連中かね?
「気にするな。で舞。どうやってそのゴッド・ハンドっつーの呼び出すんだ」
「それを知っていたら苦労しない」
まあそうでないと話が続かんからな。
「それにしてもどうしてそんなこと知ってるんだ?」
「………………」
舞は何も答えない。今までの舞の行動を見ていると、どうもこのゴッド・ハンドという奴らが舞の最終目標らしい。
「しかしちょっと待て。これを香里が持っていたということは……」
俺が恐ろしい結論を言おうとしたときだった。
「……すぐに分かる」
「すぐに分かるって……」
舞は俺の心を読んだかのようにつぶやく。そしてこの場から去っていった。舞がいなくなったので俺もこの場所を去る、これからのことを考えながら。
家に着くと名雪が迎えてくれた。
「祐一お帰り。今日は早かったんだね」
笑顔の名雪に向かって俺は気の重くなる質問をしてみた。
「なあ、香里のことどう思う?」
「どうって?」
「いやつまり好きとか嫌いとかだ」
慌てて訂正する、でないとこれ以上何を言いだすか。この小説で名雪はあくまでもツッコミ役だ。
「香里は大切な友達だよ」
よし話しが戻った。これ以上あんな話されたら栞とキャラがかぶってしまう。それはまずい。
「そうか」
名雪らしい答えだな。素直にそう思った。
「急にどうしたの」
「何となく、さ」
さすがに今日のことを話す気はしなかった。と言うよりいえなかった。
「祐一変だよ、最近」
「そうか?まあ何かあったら名雪に相談するようにするよ」
その場逃れの言い訳をしておいた。
「私でよければいつでもそうしてね」
「ああ、じゃあ俺、風呂入って寝るわ」
「がんばってね」
「何をだよ。覗くなよ」
「この本女性向けじゃないから、そんな事しないよー」
「…そのうち女性向けもやるか」
「祐一は受けだね」
「…やかましい、もう寝ろ」
そう言ってその場から離れた。気分は重いままだった。…俺はやっぱり受けキャラなんだろうか。
用事を済まして俺は、ベッドに潜って今日のことを考えていた。そしてそれはこれから起こると思われるつらい出来事を連想させていた。
「結局、みんな悲しむな」
そうつぶやいて俺は考えるのをやめた。考えていると気分が沈むばかりだった。そして俺の考えていることが間違っていたらいいのにな…とおもったところで意識がとぎれた。
次の日の昼休み、昨日と同じように舞が教室にやってきた。
「舞、どうしたんだ?」
「……ベヘリットの持ち主はどこ?」
その瞬間、俺の背筋に冷たい物が走った。
「何ー、聞こえんな」
これでごまかせられるか?
「ふざけるな」
無理か。
「それは…………」
「…………………」
舞は無言で俺を見ている。そしてその目からは答える気がないならここでことを起こすと言っているのが読みとれる。
「……あそこだよ」
仕方なく教えると舞は、クラスの連中の視線を集めながら香里の席まで歩いて行くとこういった。
「……今日学校で待っている」
言うことだけ言って舞はその場を去っていった。
クラスの連中が目を丸くしている中で俺は一人ことの大きさに震えていた。一体これからどうなってしまうんだろう…
そして夜がやってきた。俺はいつもより早く家をでた。学校に着くとちょうど校門のところに舞がいた。
「舞」
俺が声をかけると舞がこちらを向いてこういった。
「……今日は帰った方がいい」
「俺もそう思う。でもことの行く末を見届けたいんだ」
そう、それが素直な気持ちだった。俺にはこの出来事を止めることができないのがわかっている。だからせめて、ことの行く末を知りたかった。
「死ぬかもしれない」
「そうならないことを祈るよ」
それを聞くと舞は歩き始めた。好きにしろということだろう。
「舞、渡しておく物があるんだ」
そう言って俺は荷物を舞に手渡す。
「これは……」
「秋子さん推薦のナイフのセットだ。とりあえずガッツのように身につけてくれ、きっと役に立つぞ」
「祐一、またよく分からないことを言ってる」
「いつものごとく気にするな」
ナイフを身につけた舞はそのまま校舎の中に入っていく。
「どこに行くんだ?舞」
「‥‥中庭」
「何で分かるんだ?」
「私にはわかる」
そういって歩みを続ける。知らなかった…舞がニュータイプだったなんて。
「ちがう…」
人の心を読むなよ。
このまま行った先にどんな結末が待っているのだろう。わかっていることは誰にとっても良い結果にならないということだけだ。そしてそれを止める力が俺にはないこと。
ふと栞の顔が思い浮かぶ。あいつの悲しむ顔は見たくないな。なんでこんな事になってしまったんだろう。
…この話もうヤダよ。