六章 欲望の守護天使(4)

 

 

「舞!」

 俺は派手に吹き飛ばされた舞のそばに駆け寄った。遠目からでも舞が大怪我を負っているのがわかる。もともと体中動けない程大きな傷を負っていたのに更にあれだけの衝撃を喰らっては…。

 近づいてみても舞は反応がない。これはどう見てもやばい。俺が手当てをしようとしたときだった。

「これより”降魔の儀”を執り行う」

 ゴッド・ハンドの一人が口を開いた。何をするっていうんだ。

「香里、生贄を」

「そ…それでしたあの女を…」

 ちょっと待てっ!それは舞のことか?なんだか知らんがどう考えたったやばいぞ!どうしろってんだよ!

「それは無理ね」

「あの女はすでに生贄としてささげられている」

「それに降魔の儀での生贄はあなたにとって大切な者『あなたの心の一部』……あなた自身の一部とも言える者でなければならないのよ」

 あなた自身の一部って…まさか……!

「それではいったい……?」

 香里が言うとゴッド・ハンド一人…さっき舞が佐祐理と叫んで切りかかって行った奴が指をかざした。

「あははー ものわかりの悪い人ですね。私たちはあなたの妹を生贄にささげなさいと言ってるんですよ。わかりましたか?」

 そう言って栞に指を向ける。栞を生贄にしろだって。俺が栞の方を見てみると黙って震えていた。無理もないな。

「妹は…栞だけは…!」

 香里は声を上げる。さすがに妹を犠牲にするほど落ちてはいないようだ。

「そう取り乱すな、あの時と同じ様にやればいいんだ」

「あの時……?」

 栞が口を開いた、その顔には疑問の文字が浮かんでいる。それは俺も同じだ。奴らの言い方からすると香里は以前誰かを生贄に捧げていたと言うのか?

「お嬢さん、聞かされてなかったのかい?お前の姉がやったことを」

「それだけは……!」

 香里が取り乱した。あいつは以前何をしたってんだ?

「教えてあげよう」

 ゴッド・ハンド一人がそういうと空中に何かが映し出された。

「これは……?」

「これはほんの十日ほど前のお前の姉だ」

 そこには香里の姿が映し出されていた。

「お姉ちゃん」

「死ぬはずだった妹が帰ってき、仲良く暮らす。幸せを絵に描いたような姉妹だ」

「しかし彼女は苦しんでいた。自分の妹が恋人といるところを見て・・・彼女は自分が目立たない脇役であることを自覚していたからだ」

 そっ、そうだったのか。

「しかし彼女はそれに耐えることができた。なぜなら自分が一番格下ではないと思わせる者がいたら」

 すると空中に一人の人物が写った。それは……!

「北川…」

 そこにいたのは北川だった。

「彼女はこの少年に比べたら自分は上だ。いなくても話が進む.…この男よりはずっとましである」

「そう思うことで自分を慰めることができた」

「しかしある日、限界がきた」

「その日彼女は絶望に追いやられた」

「しかし、その絶望もまた…因果律の輪の内だった」

「この世の神では救えない魂の慟哭が、次元の扉を開いたのだ」

「おまえは言った…私をこの苦しみから救ってくれと」

「そして我々はそれを約束した。ある一言と引き換えに!」

 すると空中に俺のよく知る男が現れた。

「北川…」

 そこにいたのは北川だった。

「彼女はこの少年に比べたら自分は上だ。いなくても話が進む.…この男よりはずっとましである」

「そう思うことで自分を慰めることができた」

「しかしある日、限界がきた」

「その日彼女は絶望に追いやられた」

「しかし、その絶望もまた…因果律の輪の内だった」

「この世の神では救えない魂の慟哭が、次元の扉を開いたのだ」

「おまえは言った…私をこの苦しみから救ってくれと」

「そして我々はそれを約束した。ある一言と引き換えに!」

 すると空中に俺のよく知る男が現れた。

「北川…」

「お前は言った。”この男を生贄に捧げる”と」

「自らの存在を唯一成り立たせていた者の命を!お前は差し出したのだ!!」

「三流キャラを超越するためにな!」

「叶えるがいいその欲望を」

 その瞬間、栞の前に舞に刻まれているものと同じ烙印の形をした炎があらわれた。

「栞!」

「祐一」

 いつの間に気がついていたのだろうか、舞が俺を呼び止めた。

「大丈夫なのか、舞?」

「右腕だけでいい……動かせるように」

「何?」

「急げ…今すぐだ!」

 舞がそう言っている間にも空中に浮かぶ烙印が栞を狙っている。

「さあ唱えよ!この娘を生贄として魔に捧げるか否か」

「栞!」

「何をしている!グズグズするな!」

「でも…!」

「でないと祐一の大切な恋人にもこれと同じものが刻まれる」

 しかしこの状況でいったい舞に何が出来るっていうんだ。右腕が動かせて何になるっていうんだ。

「それがいやなら早くこの腕を動くようにしろ。祐一はその為にいつもきてたんだろうが…」

 そう言われて俺は舞の手を取って秋子さん特性の薬を取り出した。

「取るに足らない存在だと…!」

 舞が呟く。さっき舞が佐祐理って奴に言われていた台詞だ。いったい二人には何があったてんだ。見た目は草薙京を狙う八神庵のような感じだったが。いや、ちょっと違うか?

「何を迷っている」

「見てみてください、香里さん」

「が!」

 佐祐理がそういうと急に舞が苦しみ出した。そしてこの場に何か得たいの知れない空間が現れた。

「あれはまさか…?」

「その通りですよ香里さん。あれは地獄です。あなたが今死んでしまったら、絶対にあの地獄に行くことになっちゃいますね。そしてずっとあそこをさまようんですよ。あははー、たいへんですねー。それが魔に関わってしまった人の運命ですよ」

 魔に関わったものって…それじゃ…舞は?

「香里さん、あなたに残された道は二つ。魔として生きるか地獄に落ちるかしかないんですよ」

「妹を生贄に捧げると唱えればよいのだ」

「それで烙印はお前の妹に刻まれる」

「あの娘は魔のものになる」

 ゴッド・ハンド達が口々に香里を促す。やばいぞこのままじゃ栞が!

「死ぬのは……!いや……」

 香里が栞の方をみてあんなことを言ってやがる。舞っ、何とかしてくれよ!

「お姉ちゃん…」

 しかし栞が祈るような顔で香里の方を見ているときだった。空中に浮かんでいた烙印がはじけてきえた。

「因果律の糸は断たれた」

 その瞬間地獄の方から亡者達が押し寄せてきた。香里を地獄に引き込もうとしているのか?

 そしてよくみると亡者のなかの一人に見知った顔があるのに気がついた。そうあれは俺がよく知る…。

「北川」

そしてその北川が先頭になって香里を地獄に引きずりこみ始めた。

「栞!」

「…お姉ちゃん…?」

 そのままあっという間に香里は消えてしまった。

「栞!」

 俺が叫んだそのときだった。

「舞!」

「うわっ」

 亡者どもが舞まで狙って引き込もうとしてきた。考えてみれば舞は烙印が刻まれていたのだった。

 亡者どもに舞が空中に舞い上げられたときだった。舞が義手をゴッド・ハンドの一人、佐祐理にむかってかざした。そしてその瞬間、轟音をあげてそこから火球が佐祐理にむかって飛び出した。しかしそれはあたる前に壁にあたったかの様にはじけとんだ。しかし亡者どもを振り払う効果はあったようだ。弾け飛ぶように舞が落下して転がり落ちた。

 しかしさっきのあれが本当に撃てるとは思わなかった。あれは確か舞に義手を渡した次の日だった・・・・・・

 

「いいか舞昨日はいえなかったがこの義手にはすごい機能がついているらしい」

「…ロケットパンチ……」

「何か言ったか?」

「いや…」

 おそらく聞き間違いだろう。舞があんなことを言うわけがない。俺は気を取り直して説明を始めた。

「いいか舞。これにはなんと大砲がついているんだ」

「……」

「少しは驚けよ」

 俺がこんな事を言っても何の反応もありゃしない。

「まあいい、でこれに弾を入れてその金具を引くと弾が発射されるらしい…って俺に向けるな」

 舞は無表情でこっちに照準をあわせている。怖いったらありゃしない。

「…弾は?」

「この37mm専用弾を使用しなさいだとさ。弾種はタングステンカーカーバイド弾芯の爆裂徹鋼弾と劣化ウラン弾、それに破砕弾丸だ。しかもどれもケースレス弾だ、扱いには注意しろよ。へたすりゃ被爆するぞ」

 そう言って俺は秋子さんに渡された弾を渡した。しかし破砕弾丸とはまたシブイ…。

「どこでこんな物を…?」

 まあ当然の疑問だろうな。

「名雪が言うに何かあの人は英国国教騎士団の元吸……いやなんでもない」

 それ以上は怖くて言えない。あの人なら十分にありえることだからな。 

「これは凄いのか?」

「秋子さん曰くあのクリムゾンやコスモドラグーン、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカルに匹敵して『近距離ならイゼルローン要塞の外壁以外ならぶち抜ける』威力があるとかないとか」

「…なんだそれは?」

「さあ?」

 俺も言われたことそのまま言っただけだからな。

「最後に言っとくが、これを間違っても公共の場で使ったりしない様に。職質も危険だから避けろ。あの人がいるから警察も何とかなるんだろうが、面倒なことは起こさないに限るからな」

 何か凄いこと言ってるな。まあ本当にそうなんだろうけど。

「そんなヘマはしない」

「なら良し」

 

 ……なんてことがあったのを思い出した。

 舞が弾を撃って弾き飛ばされたあと空間が元の学校に戻った。

「…もどった…か?」

 俺が回りを見渡すとそこには香里の遺体と栞がいた。

「…栞…」

 かける言葉が見つからない。

「祐一さん…なんでこんなことに、お姉ちゃんと仲直り出来たのに…なんでこんなことに。もういやですこんなことなら…死んだほうがいいです」

「……」

 おれが何の言葉もかけられずにいると、舞がそばまでやってきた。そして栞のそばにナイフを投げた。

「じゃあ死ねば」

「………」

 俺は無意識に舞に向かって手を上げていた。しかしそれは簡単にかわされた。

「栞がどんな思いをしたか…お前だってわかってんだろ!」

 しかし舞は栞に向かって話し続ける。

「だから…死ねば。やめてしまえばいい…そんなにいやなら。死ねばいやなことともさようならだ。あなたの命だ、あなたの好きにすればいい」

 本気だ!舞は本気でそう思ってる。顔をみればわかる…

「あなたさえいなければ、あなたさえ…」

 栞はそう言って舞の方を睨んでいる。そして舞はそれを黙って受けている。

「その目じゃもう死ぬ気はないな…まあそれもいい」

 そう言って舞はそばに落ちていたベヘリットを手に取りこの場から去ろうとした。

「殺してやる…いつか必ず殺してやるからぁ!」

「栞…」

「いつでも来い…」

 そう言って舞はこの場から去っていく。それを俺は追いかける。

「…舞、おいちょっと…」

そう言って舞の顔をみて俺は言葉を飲み込んだ。舞は悲しそうな顔をして涙を流していたからだ。しかし俺が顔を見た後、すぐに表情を元に戻して去って行った。

「舞……」