虐待

「誰だよ、おまえ。ずっとつけていただろ」

「やっと見つけた…」

 だが意外にも声は少女のものだった。

 ただならぬ空気が漂う。

 少女は纏っていた布を投げ捨てた。

「…あなただけは許さないから」

 一体どんな見知った顔が暴かれる、と思っていれば、まったく見覚えのない顔だった。

「おまえのような奴に恨まれるような覚えはないぞ」

「あるのよ、こっちには」

 どちらにしても、穏便に済みそうな状況ではなかった。

 なにより少女の目は真剣で、冗談でそんなことを言っているのではないことがわかる。

「…覚悟!」

 少女が固めた拳を後ろに引き、間合いを一気に詰めた。

 …どうする

 

 @かわす

 A殴られる

 Bクロスカウンター

 若い頃(ファミコン時代)ほどの威力はないが、それでも俺のパンチは頼りになる。

 見事なカウンターだ。

 真に迫った言動とは裏腹に、少女はあまりに喧嘩慣れしておらず、その腕は見かけ通りのひ弱なものだった。

 それどころか俺のパンチはモロに顔面を直撃した…。

「あぅーっ…」

 ぽてっ。

 俺の胸に額を当てると、そのままずるずると顔面を擦らせながら落ちていった。

「おいっ」

 一撃で…気絶? 

「…………」

 そして冷静になって辺りを見回すと、通行人の視線を一手に集めていた。

 その目は非難に満ち、皆が一様に俺を責めているような気がした。

「見ろよ……無抵抗の人間を殴るのを楽しんでるぜ」

「あいつこの前の転校生だぜ。信じられない……。あんな事をする人だったなんて」

「早めに本性がわかって良かったな」

 ここで、この子を置いて逃げるなんてことをすれば、それこそ警察沙汰になりそうである。

「あはは…」

 善良なところを笑顔で訴えかけながら、俺は少女を背中におぶって退散を決め込んだのだった。

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