お名前 最終章

 

「お名前は?」

「あ、あぅ…」

 真琴の顔が知恵熱でも出したように、赤くほてっていた。懸命に、真琴なりに、必死なのだ。

「おいで」

 天野が両手を開いていた。

「………」

 少し迷ってから、その腕の中へと真琴がとてとてと歩いてゆく。

「………」

 天野はその小さな体を抱いて、そしてその頭を撫でてやっていた。

「こうしたら、落ち着くんです」

 俺のほうも振り返らず、天野は小声で説明した。

「………」

 真琴は気を許して、その少女の体に身を預けていた。

「お名前は?」

 頭を撫でながら、天野はそう繰り返した。

「あぅーっ…」

「ほら、頑張って。お名前は?」

「うーっ…」

 出てこない。

「お名前は?」

 根気よく、天野は質問を繰り返す。口調は、ずっと穏やかなままだった。

「ほら、お名前は?」

「あぅ……ま…」

「ま?」

 こくり、と真琴が頷く。

「まの次は?」

「こ…」

「まこ?まこでいいの?」

 ぷるぷると顔を横に振る。

「まこ…の続きは?」

「あぅ…」

「ほら、もう少し」

「……と」

「と?まこと?真琴でいいの?」

「まこと、あぅ。まことっ」

 大きく頷く。ようやく挨拶が終わったのだ。

「どうだ天野。知っている名前か?」

「いえ…知らない名前です」

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