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プロローグ
母が鬼の首を取ったように責め立てる。
どうしてだろう。
母の誕生日プレゼントに似顔絵を送ろうと思った。それがようやく完成し、母に見せようとしたが、絵が大きくて運べないので部屋に招き入れた矢先、そのような怒声が飛んできたのである。
喜んでもらおうと思ったのに、何が気に入らなかったのだろうか。
似顔絵が似ていないからだろうか。
どうせなら大きくてキレイな絵を描こうと、内緒で大きなキャンバスと山ほどのクレヨンを買ったのがいけなかったのだろうか。
それとも絵を描くのに夢中で、気付かない内に部屋を汚してしまったからだろうか……ああ、きっとそうだろう。
母はキレイ好きだから。いつもキレイにしろと怒るから。そうしないと食事すら与えてくれない事もあったから。
彼女の努力の結晶は、ただ床に落ちていた。
「せっかく……描いたのに」
朝霧鈴(あさぎり れい)という9歳の少女の精一杯の抗議は、母の怒鳴り声によって掻き消された。
それから24時間、鈴は食事を与えられなかった。
14歳を迎えた水嶋聖(みずしま ひじり)は、その日もいつもと同じように日記を綴った。
『今日、母が死んだ。
まぁ、あんな事故じゃ仕方が無い。相手が大型車なら、即死しなかっただけでも幸運だ。いや、母の容態を見たが、あれならいっそ即死していた方が楽だったろうか。
それより問題は、父親が蒸発してしまった今の私に残された家族は、入院中の妹だけという状況だ。両親と血の繋がりなんてないし、私もあの人達は嫌いだったから別にどうって事は無い。だが、妹だけは違う。あの子には私と同じ血が流れているし、そうでなくとも私はあの子の味方をすると決めたのだ。しかし、現実的な問題は私達を見過ごしてはくれない。
妹の入院費は?
当面の生活費は?
私の学費は?
他にもあるが、重要なのはその辺りだろう。最も無難な解決策は新しい里親を見つける事だが、もうそんな気にはなれない。
それによく考えれば、私には多額の金銭を得る手段があるではないか。見つかれば捕まるだろうが、要はバレなければ良いのだ。
表層的な家族の付き合いにうんざりしていたから、これは良い機会かもしれない。妹の面倒だって私が見れば良い。あの子は純真だから、私の言う事は何でも信じる。
やれやれ、一瞬でも深刻に考えた自分が馬鹿みたいだ。何も問題は無い。むしろ目障りな人間が消えてくれて助かった。両親は私のこういう性格が気に入らなかったのだろうが、そんなのはお互い様だ。
そうなると、残った問題としては妹の気持ちだろう。あの両親は妹の事は可愛がっていたから、今頃は泣いているかもしれない。今日はもう遅いが、明日は病院に行ってあの子を励ましてやろう。とりあえず、妹の前で両親の死を悲しむ演技の練習でもしておこうか』
聖はひと息つくと、いつもと同じようにペンを置いて日記を閉じた。
―――――to be continue
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