約束―シン・アスカ―

 

最高評議会議長ギルバートデュランダルは戦死し、ロゴスは殲滅という形、戦争での勝者はエターナルが率いるラクスクライン、彼女の恋人であり最高のコーディネーターキラヤマトのものとなった。

新しい最高評議会、プラントの議長にはラクスクラインが。オーブのカガリユラアスハは平和条約をとって、代表として女王の品格を出していた。
「力こそ正義なのです、正義と平和を守るためなら武力をもってしても殲滅すべきです。私は武器を持たないものの味方です」
お披露目の席で彼女は力強い声で民衆の前で発表した。
その中には、議員とその子供達。ザフト軍やマスコミなど様々な姿があった。

オレは艦長もいないミネルバの一員としてその場にいた。当然、ルナマリアホーク、彼女も一緒だ。

武器を持たないものの味方?
正義を貫く為ならば武力を持って殲滅する?

「大丈夫よ、シン。ラクス様ならきっと誰も死なない平和なプラントにしてくれるわ」
「そうだな」
この時、オレはキラさんやラクスさんを信じていた。

レイはクローンで苦しんでいたのに気付けなかった。確かにギルバート議長は「悪」だったのかもしれない。
あらかじめ決められた世界など、死んでるのも当たり前だ。
アスハのあの女、カガリも実力不足ながら守ろうという気持ちがあったことはわかる。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
何回も謝りながら、オレは彼女の前で謝る事ができなかった。
「いいんだ、私も悪かったんだし」
彼女は始めてオレに笑顔を向けた。
オレは始めて、その時カガリユラアスハという人間に触れた気がする。

あんなに戦ってたくさんの人を殺して。
でも、誰かを守りたくて。守れない自分が悔しくて。

何も見ようともしないで、オレはなんて馬鹿だったんだろう。

しかし、オーブで未だにMSを製造し、宇宙や他国から戻ってきた難民の存在が言った。
「どうして、カガリ様は何もしてくれなかったんだ?」
「結婚してくれれば、私の子供は死ななくて済んだのに」

ザフトの任務で地球連合だった兵士や親がブルーコスモスだった為迫害されている子供。
俺は石を投げつけられた。
「人殺し!!返せよ、オレの父ちゃんや爺さん返してよ!!」
それは一度見たら忘れられない憎しみの瞳だった。俺がよく浮かべた色の、憎しみと絶望の瞳。
逆に俺たちと過去二回も殺しあった地球連合の兵士だった男は、冷静で優しかった。
「そうですか、貴方はプラントの。え?殺したいかって?そりゃあ、そういう気持ちはありますが私はもうナチュラルだろうと貴方達コーディネーターだろうと殺したくありません」
それより見ていただきたいものがあるんですが、とある施設に連れていってもらった。

「いやアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
耳が引き裂くまで泣き叫ぶ黒髪の幼い少女の両手には暴れない為のベルトがつけられている。
「あの女の子は?」
「私と同じ地球連合であり、ロゴス推進派だったラスティスの娘、ルディアです」
「ロゴスの!?」
「―ベルリンでアークエンジェルが撃った我々の看護士に彼女の母親もいて、逃げ遅れた子供を助けようとして亡くなり、ラスティスは戦死しました。貴方がプラントの人間ならぜひ聞きたい。
アークエンジェルやエターナルは本当に我々を守るために戦ったのか?ラクスクラインのいう「力が正義」なら、なぜ仲間に刃を向ける?」

ズキン、その言葉が重くシンの心にのしかかった。
「それは」
「確かにロゴスは必要悪というか、悪そのものかもしれない。それを母体としたブルーコスモスも、彼らのやった事は人としてやってはいけないことだ」
「でも、連合だって強化人間を作ってたじゃないか!!」
シンの言葉に男は口を黙る。
「それはそうだが」

一時間後、ようやく落ち着いたその男は再び口を開いた。
「すまない、取り乱してしまって」
男は気恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。
「ただしって欲しかったんだ、私や彼女のように君たちの敵となったものも守りたいものや明日を望む気持ちがあることを」
「なぜ、オレに?」
「さあ、誰かに聞いて欲しかったのかもな。
最後に男はデスティニープランのコピーを移したノートを見せてくれた。
「エターナルの乗員だった友人の話によると、フリーダムのパイロット達はノートを見ただけで戦場に復帰する事を決心したそうだ」
「そうなんですか?」
ほとんど、手書きだ。
あの慎重で計画性もある議長が良くこんなものを残していたものだ。
「あれ?」
「どうしたのかね?」
「いや、これが本物のコピーだとしても本当に議長が書いたものかなって。キラさんたちは当然それを確認済みで行動に移したんですよね?」
男は少し意外そうな表情を浮かべた。
「いいや、確信だけだ」

シンの思考がぐるりと廻る。
「ちょ、ちょっと、待って、じゃあ何、あの人たち思い込みでプラントに戦争吹っかけたって事ですか?いくらなんでも、そんな馬鹿がいるわけ。信念とか議長の確かなデスティニープランの証拠とか掴んでるんじゃなくて」
「それはどうだろう。私もそれはさすがにないと思ったが、テロリストだって確信も証拠もなしで行動しないしな」
男は本当に困った表情を浮かべた。

何度吹き飛ばされても僕達はきっと花を植えるよ。
「そんな」
いや、だめだ。自分はまた確かめもせずに相手に気持ちをぶつけようとしている。



キラさんたちがそんな。



「シンアスカがザフトをやめた?それは本当ですか、イザーク」
議長室で資料を見ていたラクスが微かに動揺の色を見せた。
「はい、早朝人事部に退職届が届けられたそうです」
「そんな、せっかく一緒にがんばってもらえると思いましたのに」
「私も残念です、彼のような優秀な人材だけじゃなく、ルナマリアホークまでやめてしまうとは」
どうして?

ラクスはシンの思いがまったくわからなかった。


「本当にいいの?」
地球に下りた2人はある港町に降り立っていた。
「ルナこそいいのかよ?出世できそうだったんだろ」
潮の香り、鳥の鳴き声、澄み切った青空が2人を包んでいた。
「いいのよ、私元々そういうの興味ないし、息くさい親父のご機嫌なんかとりたくないもの」
ルナマリアがシンの手をぎゅっと握る。
「で、どうする?デートする?それとも新しい職探しかな」
ルナマリアは笑顔を浮かべ、シンの頭をグシャグシャした。
「うん、職探しするよ。それと新しい仲間や組織を作るための資金も」
「シン、貴方」


「ルナ、オレが悪魔になってもついてくるか?」
信じたい、彼らが作る新しい世界を。
そして知りたい、知らなかった事を。
「テロリストになるって事?それとも正義の味方?」
「いいや、オレは正義の味方にならないよ。でも、これだけは約束する。オレは絶対ルナを裏切らないよ」
その赤い瞳には強い意志のようなものが浮かんでいた。


どこかの紛争地帯。
数年後、キラとアスランは地球統合組織をつくり、プラントとオーブによって世界は平和の世界になった。

パン!パン!
廃墟となった街並みの片隅で一発の銃弾が放たれた。床にうずくまってるのは統合組織の一般兵と絵本やおもちゃ。
「これは」
そこには感情がまったく移ってないガラスのような瞳の少年が重そうな銃を持って、後ろにいる子供達をかばっていた。
「君がやったの?」
ルナマリアが安心させる為に笑顔を浮かべた。
「うん、だってこいつらが殺そうとするんだもの。この子たちの親がブルーコスモスの疑いがあるからって」
少年は訓練されているのか、的確な位置を撃ち抜いていた。
「君、どこの子?」
「わからない、ずっと研究所にいたから。大人たちは僕を忌むべきコーディネーターより強くするって言ってたけど」

まさか。
「お姉さんたちも僕を殺すの?」
シンは大丈夫だよ、と優しくその子供を抱きしめた。

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